第23章 それぞれの誤算
澤「・・・その信じて飛ぶって事が、とんでもない武器なんだけどな・・・」
『それに気が付いていないのも、日向君の純粋な所なんじゃないですか?・・・はい、大地さん?』
そう笑いかけて、スクイズとタオルを手渡す。
澤「そうかもな・・・それより・・・なんで救急セット?」
『あ、これは・・・日向君が手を見つめて動かないから、てっきりケガしたのかと思って・・・でも、使う事がなくて良かったです』
ひょいと救急セットを持ち上げて、私は肩を竦めた。
澤「一瞬でそんな判断が出来るなんて、優秀なマネージャー補佐さんだね?」
『やめてくださいよ、もう』
そう言いながら2人でベンチへと足を運ぼうと向きを変えると、私の真後ろに影山が立っていた。
影「城戸、お前・・・」
『影山?・・・ど、どうしたの?かな?救急セット使う?』
不機嫌な黒いオーラをメラメラと燃やし、眉間に深いミゾを作っている影山の顔を出来るだけ見ないように話す。
影「お前さっき、チョロチョロすんなって言ったの忘れたのか!」
『あ、いやぁ、あはは・・・』
影山のオーラに押され、曖昧に交わしながら澤村先輩の影に隠れようと後ろに下がる。
影「逃がすか、このっ!」
『ひゃぁぁっ!!』
澤村先輩の背後に回り込まれ、呆気なく影山に抱えあげられてしまう。
澤「え?あ、ちょっと?影山?どうした??」
事態が飲み込めず、ポカンとする澤村先輩に、何でもないですと返して、私は影山から解放されようとジタバタと暴れた。
影「澤村さん、コイツ足ムガッ!・・・なにしやがんだテメェは!!」
影山の口を慌てて押さえると、澤村先輩も影山の言葉から何かを察して、途端に険しい表情に変わってしまった。
澤「・・・足?」
『な、何でもないです、ホントに!影山も降ろして!』
影「お前!いい加減に観念しろよ!っと、暴れんじゃねぇ!落とすぞ!」
澤「あーもう!2人とも!!・・・影山、もしかして紡が?」
澤村先輩の言葉に、影山は黙って頷きながら私を見る。
澤「分かった。影山、そのまま紡をベンチまで運べるか?」
影「行けます!」
澤「頼む。急ぐぞ!」
澤村先輩は私が持って来た救急セットを持ち上げ、影山と並んでベンチへと動き出す。
私はケガをした事、それを隠していた後ろめたさで、影山の肩に顔を埋めた。