第23章 それぞれの誤算
ホントにもぅ、と、付け加えて言うと、澤村先輩も分かってるって、と返す。
『行ってらっしゃい・・・って言うのも、なんか変ですけど・・・行ってらっしゃい!』
私の言葉に、澤村先輩は軽く手を上げてコートに戻る。
その背中を見送ってから、自分もベンチに戻ろうと1歩踏み出すと激痛が走り、痛みに耐えるため立ち止まった。
影「おい」
『あ、影山・・・影山もおまじない、やっとく?』
出来るだけ平静を装いながら言うと、眉間に深いミゾを作りながらため息を吐かれた。
『ですよね・・・影山はそんなのいらないよね』
影山の腕を軽く叩き、痛みで重い足を踏み出す。
影「お前、もうチョロチョロすんな」
『チョロチョロって、どういう意味よ!って・・・なに?!』
急な浮遊感に驚き、咄嗟に影山に掴まる。
すぐに自分の状況を確認すると、浮遊感の正体は影山だった。
『た、高いっ!怖いっ!何よりお姫様抱っこやめて!恥ずかしいよ!!降ろして影山!』
手足をバタつかせながら言って、早く降ろしてと懇願する。
影「ルセぇ。暴れんな!・・・お前、足ケガしてんだろ。隠してるみたいだけど」
影山の言葉に、体全体がピタリと動けなくなる。
『し・・・してないしてない。大丈夫だから』
影「みんなはどうだか知らねぇけど、俺を誤魔化そうとしてもムダだ。そんなに抵抗するなら、今すぐシューズ脱がしてお前の足をお披露目するぞ」
・・・それはちょっと、困る・・・かも。
影「ってなわけで、観念しろ」
そこまで言われると、抵抗も反論する事も出来なくなる。
私は降参の白旗を上げる代わりに、影山の首に腕を回して、その首筋に顔を埋めた。
『いつからバレてた?』
影「・・・お前が俺の頭を冷やしてる時」
『バレてたのかぁ・・・』
影「バレバレだ」
『参りました・・・かな』
2人で顔を合わせ、笑い合う。
澤「2人とも、試合始まるから」
澤村先輩の呼びかけに影山が返事をして、私をベンチまで運ぶと、そっと降ろしてコートに走って行った。