第23章 それぞれの誤算
烏野チームがコートに入ってからも、まだ少し青城ベンチは解放されなかった。
・・・恐らく、1セット目の様子を見て対策を練った監督が何かを伝えているんだろう。
会話の合間に、烏野が、とか影山が、とか聞こえてくるしね。
日「城戸さん・・・ちょっと・・・」
そばにいるはずのない日向君から呼ばれ、記録ノートから顔を上げた。
日向君はコートのラインギリギリの所まで来ていて、私を手招きする。
菅「日向?」
『よく分からないけど・・・とりあえずそばに行ってみます』
言いながら椅子から立ち上がり、日向君がいるライン際まで近寄った。
『日向君、どしたの?』
日「あ、あのさ?さっきのおまじない、もう1回やって?」
桜太にぃのおまじないを、いま・・・ここで?!
『あ、そ、それはちょっと・・・』
日「ほんとお願い!影山の後頭部サーブで緊張治ったんだけど、き、気合い入れ過ぎてドキドキしてきちゃって・・・」
そう言われても、ねぇ。
澤「日向?なにしてる?試合始まるからウロウロすんな?」
自力で何とかして貰うしかないって応えようとしたら、私たちのコソコソ話の様子を見に澤村先輩までもが来てしまう。
澤村先輩が来てしまった事で、日向君は自分の口からおまじないの話をした。
澤「へぇ・・・それで日向が頑張れるなら、紡?やってあげたら?」
『大地さんが、そう言うならいいですけど・・・』
日「どうせなら全員やって貰ったらいいですよ!凄い効き目あるし!」
『えっ?!いや、それは・・・』
さすがにあのおまじないを全員って・・・恥ずかしいよ!!
日向君の突発的な提案に、みんなが頑張れるならやって貰おうかと澤村先輩も乗り気で声をかけ始めた。
影山は日向君にふざけてんのか!って怒るし、月島君なんて見るからに面倒な顔をしてる。
日「城戸さん!オレ!オレ1番目ね!!」
そう言いながら日向君は軽く両手を広げスタンバイしている。
私は小さくため息をついて、分かったから、と日向君に返し1歩前に出た。
『日向君、いい?』
ひと声かけて日向君をキュッと抱きしめた。
『日向君は大丈夫!日向君なら出来る!大丈夫、私がついてるから!』
控えめな声で言って、背中に回した手をポンポンとして体を離す。
日「あれ?なんかちょっと、さっきよりショートバージョン?」