第7章 嵐の足音
オレの行動に手をピクリとさせた紡ちゃんが、俯きながらも、瞳を揺らせているのが分かった。
この子は、こんな小さな体のどこに、そんな強さを秘めているんだろう。
そう思えば思うほど、オレは紡ちゃんの事を愛おしく思えてくる。
岩ちゃん・・・あれだけ大切なものは手放すなって言ったのに。
どうしてこの小さな手を離したりしたんだ。
もう、誰にも遠慮なんてしない・・・周りの目なんか気にしない・・・オレはこの手を離したくないと思っていた。
岩ちゃんはオレの事、普段からバカとかグズ川とか言ってたけど、ホントにそうなのは岩ちゃんの方じゃないか。
脳裏でそんな悪態をつきながら、オレは包んでいる手に少しだけ力を入れた。
「紡ちゃん・・・」
名前を呼ぶと、ゆっくりと顔を上げてオレを見る。
ほんの数秒だったかも知れない。
オレ達は見つめあったまま、時が流れるのを感じていた。
「オレに・・・しない?」
真っ直ぐに視線を絡めたまま、オレは言った。
すると紡ちゃんは、少し切なそうに微笑みながら・・・ゆっくり頭を振った。
そんな姿をみて胸が痛くなる。
「・・・だよね・・・ゴメンね、辛い事たくさん聞いちゃったね」
そう言っているうちに、紡ちゃんに着信があり、約束をしているお兄さんが近くまで来ていると言うから会計を済ませ外に出た。
雪か・・・
店内にいる時は気づかなかったけど、外はチラチラと雪が降り出していた。
「ホワイトクリスマスだね~」
そんな事を言いながらコートを着直していると、紡ちゃんは吹いてくる風に髪を遊ばせながら首を竦めていた。
手にしていたマフラーをそっと巻いてあげる。
ちょっと動揺して、紡ちゃんは必ずお返しします・・・なんて言って、風になびくそのマフラーを押さえていた。
« 紡? »
誰かが彼女の名前を呼んだ。
声がした方を向くと、何だかワイルドな感じの、ちょっと大人な男が立っていた。
紡ちゃんとのやり取りで、すぐにその人がお兄さんだと分かり、挨拶をする。
紡ちゃんがいろいろご馳走になったとか言うから、それはそれでお礼を述べられた。
「じゃ、紡ちゃん。オレはもう行くよ、またね?」
そう言って、未だ湧き上がる愛おしさを抑えきれず、そっと頬をなで、歩き出した。
そしてオレは、岩ちゃんの家までの道のりを駆け出していた。