第7章 嵐の足音
どうしたのかな?と視線を落とすと、紡ちゃんはオレと視線を合わせ、コートをキュッと掴むと
『ありがとうございます・・・』
と一言漏らす。
何かが胸を突き抜ける感じがした。
どういたしまして・・・なんて言いつつも、あまりの破壊力に、街中にいる事なんてどっかに吹っ飛び、紡ちゃんをギュッと抱きしめた。
数秒の間が空き、紡ちゃんが街中でやめてなんて抵抗していたけど、ちょっとだけ、ホントにちょっとだけだけど、岩ちゃんに悪いなぁなんて思いながら、その小さな温もりを堪能した。
はた・・・と気がつくと周りの方々から注目を浴びていた。
・・・ここまでか・・・と、残念に思いながら紡ちゃんを解放する。
湯気が立ちそうなほど、真っ赤になっている紡ちゃんの手を引き、近くの喫茶店へと歩き出した。
そしてオレは、そこで衝撃の事実を知る事になる。
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『岩泉先輩とは、別れました・・・』
オレは驚き過ぎて、暫く言葉が出なかった。
別れたって、ナニ?
途端に喉がカラカラになる。
「どう・・・して・・・?」
やっとの思いで出た言葉だった。
紡ちゃんは、オレに岩ちゃんと別れてしまった事を打ち明けると、視線を漂わせながらも、その経緯をポツリポツリ話してくれた。
最初に感じた違和感は、これだったのか・・・。
紡ちゃんは岩ちゃんの事を、« ハジメ先輩 »と呼んでいた。
でも今日、オレと話す時には« 岩泉先輩 »って呼んでいた。
それに気づいた時は、アレ?と思ったけど、その場に岩ちゃんがいないからかな?なんて思ったけど・・・
そういう事・・・だったのか・・・。
『・・・なので、岩泉先輩とは、もう何でもないので、及川先輩も、もう、構ってくれなくて大丈夫です・・・』
店内の雑然とした音にかき消されそうな小さな声で、紡ちゃんは言った。
・・・そんな事を言わないでよ・・・と言おうとして紡ちゃんを見ると、その指先は僅かながら震えていた。
その言葉は、きっと紡ちゃんなりの精一杯の強がりなんだ・・・そう思ったオレはそっと手を伸ばし、その震えている手を包んだ。