第23章 それぞれの誤算
『ブス・・・国見ちゃんヒドイ!!』
そう叫びながら俺を押し返そうとする紡の手を片手で掴み、空いてる方の手で紡の顔を上げた。
「ほんと、ブス・・・だから、前みたいに笑ってろよ。ブスでも笑顔は3割増って言うだろ?」
『国見ちゃん・・・酷すぎる』
俺の言葉に紡がそう返しながら、笑顔を作ろうとしていた。
「今はムリに笑わなくていいよ。もうブスなの見ちゃったし?」
『もう、そればっかり・・・』
そう言って拗ねる紡は、また涙を浮かべていて・・・俺は、その雫を指で拭っていた。
くすぐったいよって言いながら、目を閉じた紡に・・・心が、引き寄せられた。
まつ毛、長いな・・・。
涙で濡れたまつ毛が、キラキラしてて・・・
これは、きっと夢だ。
だったら・・・夢だとしたら・・・
少しづつゆっくり、顔を近付けて行く。
ゼロ距離まで、あと数センチ・・・
俺自身も半分目を閉じかけて、こっそり息を止める。
あと、少し・・・・・・だったのに・・・
『国見ちゃん?・・・って、わっ!顔近っ!』
紡が急に目を開け、惜しくも現実に引き戻された。
・・・惜しくも?
ちょっと待て、今俺は・・・何しようとしてたんだ・・・?
お互い至近距離で固まったまま、瞬きを繰り返した。
「ばっ、バーカ!お前は隙があり過ぎなんだよ!今みたいにしてたら、お前そのうちアホ金田一に犯されるぞ!」
『犯され・・・う、うわぁぁ・・・国見ちゃん変態・・・』
紡はベンチに座ったまま後ずさりながら、距離を保とうと両手をバタバタした。
「俺じゃねーよ!金田一だよ!」
『だって国見ちゃんも今!』
「まだ何もしてないっつーの!」
俺が言うと紡はピタリと動きを止めた。
『ま、まだ?・・・て事は、こ、これからなんかしようとしてる?!』
「違うっての!なに?それとも何か期待しちゃってる?」
『し、してない。期待なんてしてないよ!お断りします!』
バタバタと慌て出す紡が、テンパった小動物みたいで可愛らしくて、俺は笑った。
「何だよ、そんなに否定されると俺だって傷付くなー。そんなんだったら、いっそキスの1つや2つしちゃえばよかったよ」
『キ・・・キス?』
「そうそう。あ、それとも?さっきの迷惑料で今からでもしちゃおっかなー?」
・・・俺は軽いノリで言ったつもりなのに。