第23章 それぞれの誤算
「そ。新学期始まってから、お前の様子が変だとか。前みたいに笑わなくなったとか?」
『そんな事、ないんじゃないかな・・・と、思う。金太郎の気のせいだよ・・・』
「ふ~ん。あと金田一が岩泉さんも変だとか言ってた。俺ら青城行くの決まってんから、今からバレー部の練習参加してるんだけど、金田一が岩泉さんに練習ばっかでお前に何も言われないのか?って聞いたらしい」
『・・・そう・・・』
「そしたら岩泉さん急に怒り出して、余計な事は考えんな!練習に集中しろ!って言われたんだとさ」
言い終わると俺は、最後の1口を棒がついたまま口に入れた。
紡は岩泉さんの話をしてから無言になり、瞬きを繰り返しながら空をぼんやり眺めていた。
「お前さ、岩泉さんとケンカでもしてんのか?」
『別に・・・そういうんじゃないよ・・・』
「じゃあ聞くけど、なんで今、そんなに泣きそうな顔してんだよ」
『そんな顔してなっ・・・あ、あれ・・・』
紡は俺に何か言い返そうと顔を向けたけど、同時にポロポロと涙を流していた。
そんな紡を見て、胸が早鐘のように鳴り出した。
なんで今頃?
コイツは岩泉さんの彼女だろ。
2人が付き合い出したって知った時、俺は応援するって決めたじゃないか。
いつも幸せそうに笑いながら岩泉さんの話をする紡を見て、諦めようって、決めたはずなのに・・・
なのに、今・・・目が離せない・・・
『国見ちゃん・・・ちょっとだけ、寄りかかっても、いい?』
「はぃ?」
『明日からちゃんとするから、だから、今だけ・・・』
流れ落ちる涙を拭う事もせず、ポツリと言う紡
に、俺は黙って片腕を伸ばし小さな体を引き寄せた。
それから少しの間、紡は泣きわめく訳でもなく、静かに涙を流し続けていた。
俺はその間、紡の長い髪を指で梳いたり、時折頭をポンポンしながら、決壊しそうな理性を保つのに必死だった。
せめて、相手が岩泉さんじゃなければ・・・
そしたら、このまま紡を・・・かっ攫って行くのに・・・
『国見ちゃん・・・ありがとう。もう、大丈夫』
そう言って、紡がゆっくり体を離していく。
その顔には、いくつもの涙の後があって。
思わずその顔に手を伸ばした。
『国見ちゃん?』
どうしたの?と問いかけてくる紡の頬を、何度もそっと撫でる。
「お前さ、今の顔すっげえブス・・・」