第23章 それぞれの誤算
「声かけただけで驚くなよな、失礼なヤツ。・・・で、まだ帰らないのか?」
『あ~、うん。日誌書こうとしたら進路相談の順番来ちゃったから』
俺と話しながらも紡は綺麗な文字で日誌を書き込んでいる。
『国見ちゃんは、まだ帰らないの?』
文字を書く手を止め、紡が俺を見上げた。
「・・・紡がそれ終わるの、待っててやるよ」
『どうして?職員室に何か用事でもあるの?』
コイツ・・・ほんとニブチンだな。
「もうそろそろ暗くなってくるし?途中まで一緒に帰ろうって、言ってんだよ。紡、怖がりだからな。暗くなってから1人で帰るの、嫌だろ?」
『でも、そしたら国見ちゃんが遠回りになっちゃうから・・・』
「俺は男だから平気。それに暗いのも紡と違って怖くないしな。いいから早く終わらせろよ」
俺は紡の前の席から椅子を引き出して座り、どうでもいいような話をしながら終わるのを待ち、職員室まで日誌を出しに行く紡に付き合いながら2人で学校を後にした。
夕暮れ時の道を、紡と2人で歩く。
『国見ちゃん、何も聞かないんだね・・・』
歩きながらポツリと言う紡に、何の事だと返事をした。
『進路相談の時、聞こえてたんでしょ?・・・部屋から出た時、国見ちゃん、微妙な顔してたから』
「あぁ、ちょっとだけな。でも、俺が何で?とかどうしてだ?とか問い詰めても仕方ない話だろ?・・・それとも、俺に聞いて欲しい?」
俺がそう言うと紡は口を閉ざしてしまった。
「悪ぃ・・・なんか変な言い方した」
居心地のいい今の時間を台無しにしたくなくて、咄嗟に謝ると、気にしてないから大丈夫だと返してくる。
だけど、何となく会話が途切れたまま、帰り途中の公園まで来てしまう。
この状態で、じゃあバイバイ・・・ってのは、なんか・・・気まずい、よな。
歩きながら、チラっと時計を見る。
まだ4時半を少しまわったくらいか。
「紡、予定変更。家まで送るから、ここ、寄ってこうぜ」
言いながら公園を指すと、紡は複雑な顔を見せた。
「いいから、行くよ。気分が沈んでる時は、のんびりするのもいいだろ?・・・って言うより、俺がのんびりしたい」
言い終わる前に紡の手を引いて、無理やり公園の中へ入る。
『ちょっと、国見ちゃん!離して!』
紡の声を聞こえないふりをして、どんどん公園の中を走った。