第22章 終わりと始まり
澤村先輩に背中を押されながら数歩前に進んだ所で、タオルを持ったままだと気が付き振り返った。
『あの、岩泉先輩・・・これ、お借りしたままですみません』
岩「あぁ、気にすんな」
タオルを見せながら私が言うと、手をあげながらそう返される。
その言葉に軽くお辞儀をして、私は澤村先輩の後に続いた。
・・・ここへ来たら、会う可能性がある事なんて分かってた。
そんなの・・・とっくに分かりきってた事なのに・・・
だけど、あんな風に再会して。
あんな・・・言葉・・・
ー 俺はお前がプレーしてる姿、好きだ ー
ズルいよ・・・ハジメ先輩・・・
堪えきれずに涙が溢れ出した。
『大地さん・・・』
澤「ん?どした?っと・・・」
顔を見られたくなくて俯いていたから、足を止めた澤村先輩にぶつかってしまった。
澤「ほらまた。ちゃんと前を見て歩きなさいって昨日も言ったでしょ?」
『ちゃんと見てますって・・・背が小さいから視界が狭いんです・・・』
澤「うん、知ってる」
わざとそう言って見せる澤村先輩が、どんどん滲んで行く。
そんな顔を見せる訳にはいかないと、更に顔を横に向けた。
『あの、3分経ったらすぐ行きますから・・・だから・・・先に戻っててください』
フゥ、と澤村先輩が小さく息をつき、私の代わりに持ってくれていたカゴを足元に置いたのが見えた。
呆れられちゃった、よね・・・
ただでさえ時間ロスしてるのに、なんてバカな事をお願いしちゃったんだろう。
澤「・・・あのさ?」
『・・・は、い』
澤「情けないけど俺は、こんな時、経験なさ過ぎて、どうしたらいいのか正直分からない・・・けど、」
澤村先輩が話し出し、見られたくないと思いつつも顔を上げた。
パサリ・・・と音と同時に、私の視界が暗くなった。
澤「3分くらい、待ってあげられるんだけどな?」
澤村先輩は私に上着を被せ、壁に背中を預けながら引き寄せた。
澤「それに、こうすれば誰にも見られないし、ね?」
そう言って澤村先輩は、上着で包んだ私の体を抱きながら、小さな子供をあやすように背中をトントンっと叩いた。
『あの、先に・・・』
被せられた上着の隙間から澤村先輩を覗き、それでも先に戻って欲しいと言おうとして、澤村先輩の言葉でそれが途切れた。