第22章 終わりと始まり
自分の気持ちに反比例するように、ため息が漏れる。
それを感じ取ったのか、紡は震える様な小声で、少しずつ話し出した。
『・・・私だって、普通の女子高生みたいにオシャレしたり、遊んだり、今まで出来なかった事をたくさんしてみたいんです。それに、普通に恋だってしたい・・・』
「そんなもの、バレーやってたって出来るだろうが!」
『出来なかった!』
俺が反論すると、紡は顔を上げ、俺の体を押し返しながら声を上げた。
『バレーやってて、普通の恋なんて・・・出来なかったじゃないですか・・・』
出来・・・なかった・・・?
・・・そうだ。
俺は何を言ってるんだ。
あの日・・・そうすることを拒み、俺の考えを押し付け、紡の手を離したのは、他の誰でもない・・・俺だ・・・
『一緒にいることも、一緒に走る事も・・・出来なかったじゃないですか・・・』
息を飲み、体を硬直させる俺に紡はそう続けながら瞳を揺らした。
・・・・・・・・・。
長く続く沈黙が・・・苦しい・・・
「ぉ・・・れの・・・俺の・・・せいか・・・?」
紡の顔を見ながら、そう・・・呟いた。
『ハジメ先輩のせいとか、そういうんじゃ、ないです。私が自分で決めた事だから』
自分で決めた・・・それはあの日の俺も同じ。
ただ、俺と違うのは・・・紡の瞳の奥に迷いのない決意が見えることだった。
「・・・ひとつ、聞いていいか?」
俺の言葉に、紡が小さく頷いた。
「バレーやめたった言ってたのに、烏野でマネージャー仕事してんのは・・・なんでだ?」
バレーをやめたとはいえ、バレーに関わる事をしている紡に、少しの疑問が浮かび、その答えを知りたかった。
紡は一瞬どこかへ思いを馳せ、そうかと思えば顔を上げて、俺を真っ直ぐに見た。
『ある人に、言われたんです。自分達と一緒に、全力で突っ走って行くのはダメかな?城戸さんの未来、少しだけ俺に預けてみない?・・・って。それを聞いた時、正直・・・心が震えました』
一緒に突っ走ろう・・・未来を預けろ・・・
その言葉は、どんなに足掻いても、俺が紡に言えなかった言葉だった。
そんな事を告げて、重荷になったら・・・
そう思うと、俺と一緒に・・・なんて、言えなかったんだ。
「それで、烏野バレー部のマネを?」
そう返すと、紡は黙って首を横に振る。