第22章 終わりと始まり
数ヶ月振りに見るハジメ先輩の姿に、思わず封印していた呼び名がこぼれた。
私達はお互いに向き合い、視線を外せないままでいた。
・・・時が、止まっているかと思った。
ほんの数分、もしかしたら、ほんの数秒なのかも知れないけど・・・
向き合っている時間は、とても長く感じた。
岩「・・・紡、なのか・・・?」
そう問われ、私は瞬きをしながら小さく頷いた。
岩「お前・・・何で、ここにいるんだ?」
『・・・何でって、言われても・・・その・・・』
歯切れが悪い答え方に、ハジメ先輩は小さく息をついた。
岩「あ・・・お前、まさか烏野、行ったのか?」
スクイズボトルを入れているカゴをチラリと見て、ハジメ先輩が私の肩に手を置いた。
『推薦・・・来てたの、全部断って・・・烏野に・・・』
私がそう答えると、肩に置かれたハジメ先輩の手に力が入った。
岩「何でだ?!バレーボールで推薦来てるからって言ってたじゃねぇか!青城以外にも結構いい条件の所もあったはずだ!なのに何で烏野になんか?!バレーはどうした?!」
『バレーは!・・・バレーは・・・やめました・・・』
ハジメ先輩の言葉に食い気味に答えると、それを聞いてハジメ先輩は息を飲んだ。
岩「・・・やめた・・・って、言ったか?今・・・」
聞き返されて、自分で決めた事なのに、少しの後ろめたさで顔を横に向けた。
岩「紡?・・・紡!こっち向けよ!」
『もう・・・いいんです。自分で、そう決めたから・・・』
顔をそらしたまま、小さく答える。
『ずっとバレーばっかりで、疲れちゃった・・・』
岩「疲れたって、なんだよ・・・?お前あんなに楽しそうにやってたじゃねぇか!なのに、疲れたからやめた?ふざけんなよ・・・」
ハジメ先輩は苦しそうな顔で呟いた。
顔なんて見なくても、いまハジメ先輩がどんな表情をしているのかなんて想像がつく。
だからこそ・・・見れない・・・
『・・・私だって、普通の女子高生みたいにオシャレしたり、遊んだり、今まで出来なかった事をたくさんしてみたいんです。それに、普通に恋だってしたい・・・』
岩「そんなもの、バレーやってたって出来るだろうが!」
『出来なかった!』
ハジメ先輩の顔を見上げ、体を押し返しながら否定する。
『バレーやってて、普通の恋なんて・・・出来なかったじゃないですか・・・』