第22章 終わりと始まり
「バカにしてるのっ?!」
・・・って、感心してる場合じゃねぇな。
中心にいるヤツがそう叫び、何かを振り上げるのを見て更に足を早める。
「っと!」
間一髪の所で腕を掴み、持っていたモンを取り上げた。
スクイズボトル?
なんつー物を振りかざしてんだ。
しかも中身入ってんじゃねぇか・・・
壁に詰め寄られたやつを見れば、1度はやられたのか前髪からはしずくが落ち、肩や胸辺りは濡れた染みが広がっている。
俺は咄嗟に背中に庇い、3人の女子に顔を向けた。
「その辺にしといたらどうだ。どう見たってお前達の方が加害者だぞ」
俺がそう言うと、女子達は顔色を悪くして目をそらす。
「・・・ヤバいよ、ちょっと・・・」
「っ・・・覚えときなさいよ!・・・行こっ!」
掴んでいた腕を離してやると、バタバタと足音を立てながら立ち去って行った。
「・・・ったく、どうしようもねぇな。おい、アンタ、大丈夫か?」
振り返りながら、小さなヤツに声をかける。
『あ、はい・・・何とか』
俯いたまま小声で答え、小さなため息を吐いている。
「何とかって・・・びしょ濡れじゃねぇか!ほら、これ使っていいから拭いとけ」
肩にかけていたタオルを掴み、言いながらサッと頬を拭きながら首元に押し当てた。
『・・・すみません・・・ありがとうござ、』
俺がタオルを押し当てると、それを使う事を納得したのかポツリと礼を言いながらタオルに手を持っていった。
受け取りながら、戸惑いつつも、ゆっくりと顔を上げて行く・・・
俺はその顔を見て・・・
どことなく懐かしいような面影を見せる女子から、思わず目をそらした。
『あ・・・ハ、ジメ・・・先輩・・・』
いま・・・なんて言ったんだ・・・?
体がピクンと跳ねるように反応して、動きがぎこちなくなる。
あの日から、もう2度と呼ばれる事のないと思っていた名前が・・・聞こえた・・・
恐る恐る、顔をよく見てみる・・・
瞬きを繰り返しては、顔を見る。
・・・もう2度と会える事がないと・・・思っていたヤツが・・・
いま・・・
俺の、目の前に・・・?
ま、さか・・・・・・紡・・・・・・?
そこにいたのは、俺の中で今も笑顔を見せる人物とは少し違う、大人びた容姿の・・・紡の姿だった・・・