第22章 終わりと始まり
『言ってる事分かんないよっ?・・・もう!田中先輩も!プレッシャーダメって!』
・・・ダメだ・・・もっかいトイレ行ってこよ・・・
フラフラしながら体育館から出ようとすると、城戸さんが心配そうに着いてくる。
『日向君どこ行くの?』
「ちょっと・・・あの・・・」
トイレ行くなんて、言いにくいよ・・・
でも、行かなきゃオレがやばい!
壁に手を付き、寄りかかりながら大きく深呼吸をする。
『あのさ、日向君?大きい体育館、ドキドキする?』
オレを覗き込んで、城戸さんが聞いた。
「オレ、ちゃんとした大会出たの1回だけだし、その時はワクワクの方が勝ってて緊張とかなかったんだけど・・・」
そう答えると、城戸さんは、そっかぁ、と返した。
『私も大きい体育館って緊張したなぁ・・・ほら、私ってこんなに小さいじゃん?だから、普通の体育館でさえ、凄く大きく感じるの』
「き、城戸さんが緊張?!ホントに?!」
思わず食いつくように聞き返すと、城戸さんはニコリとして頷いた。
『私ね、小学校に上がった時からバレーの試合やってたから、その頃からいろんな体育館に出入りしてるけど・・・やっぱりどこも凄く大きくて、足も竦むし、相手は大きいから怖いし、ベソベソ泣いてばっかだったんだよ?』
城戸さんが話す内容は、今の城戸さんからは想像もつかない事ばっかりで、オレはますますビックリした。
だって、あんなにニコニコしてて・・・
楽しそうで・・・オレ達に混ざってバレーやってても、いつも堂々としてて・・・
ちょっと、カッコイイなぁとか、思ってた。
あ、バレーしてない時は、その・・・か、可愛いって思うんだけどさ。
『それでね、そういうときは必ず、桜太にぃが私におまじないをかけてくれたの』
「おまじない?それってどんな?」
『興味ある?』
そう言って返す城戸さんに、オレは思い切り頷いた。
『じゃ、私が日向君におまじない、かけてあげる』
どんな、おまじないなんだろう・・・
ズキズキと痛むお腹から手を離し、顔を上げた、その時、オレの周りで空気が動いた。
甘い、香りがする・・・
香りに包まれ自然と目を閉じて、ゆっくり深呼吸した。
そしてすぐに、甘い香りの正体に気がついて、オレは体が固まった。
オレの鼻先に、城戸さんの前髪が揺れていた・・・