第7章 嵐の足音
「及川です。紡ちゃんとはホントに今日、偶然会いまして一人でいたようなので本来ならご自宅までお送りしようと思ったのですが、約束があると聞いたので時間までご一緒させて頂いてました」
いつもの様な爽やかな笑顔で丁寧に挨拶すると、及川先輩は私を見て、« ね?»と念押しして笑った。
慧「そうですか。それは妹が大変お世話になりました。いろいろご馳走になったみたいですみません」
慧太にぃがいうと、« いえいえ、こちらこそ楽しい時間を過ごさせて頂きましたので»なんて謙遜しながら言葉を交わしていた。
常日頃のふわふわチャラチャラした姿からは、あまり想像も出来ない及川先輩の姿に、私はちょっとだけ笑ってしまった。
「じゃ、紡ちゃん、オレはもう行くよ。またね?」
そう言って及川先輩は、慧太にぃの目を気にすることもなく、ちょっと屈んで私の頬をスルリと撫でるとコートの襟を立てながら雑踏の中に消えていった。
慧「・・・おい、紡。」
『ん?』
慧「今の、今の最後のは何なんだ?もしかして、お前の彼氏、」
『違う違う!断じて違う!神に誓っても違います!及川先輩は女の子にはみんなそうするんだよ』
首をブンブン振りながら否定する私を見ながら、慧太にぃは、
慧「フェミニストなヤツだ・・・」
と呟いた。
『慧太にぃ、そろそろ行こう?桜太にぃが待ってるかもだよ?』
慧「お?あ、そうだな。遅れると桜太ウルセーしな」
そう言い合いながら歩き出す。
風に揺られるマフラーを巻き直すと、及川先輩と同じ、甘い香りが鼻をくすぐった。
« オレにしない?»
さっきの及川先輩の言葉・・・
なぜあんなことを言ったんだろう・・・
微かな疑問を残しながら、スタスタ行ってしまう慧太にぃの後を追いかけた。