第22章 終わりと始まり
澤村先輩を押し出すようにお店から出て、そこでようやく安堵の息を漏らす。
澤「持つよ」
何も聞かずに、ただ私の手からいくつもの手荷物を受け取る澤村先輩の優しさが痛かった。
『澤村先輩、あの・・・』
澤「とりあえず歩こう」
そう言われ、何となく俯きお互い無言で歩き出した矢先、すれ違う人と軽く衝突してしまった。
『あ、すみませんっ』
ー いや、こっちこそ ー
相手の顔も見ずに、謝りながら通り過ぎる。
澤「ほらほら、危ないからちゃんと前見なさいよ?」
『見てますって・・・背が低いから視界が狭いんですー!』
澤村先輩に小さく笑いながらそう返して、人混みの中を歩く。
ー 紡!! ー
・・・え?
誰かが私を呼ぶ声がした。
それに反応して、振り返る。
澤「どうかした?」
数歩先の澤村先輩が足を止め、私を振り返りながら声をかけた。
『いえ・・・誰かに呼ばれた気がして。でも、気のせいだったかも知れないです』
確かに、呼ばれた気がしたんだけど・・・
澤「これだけ人がいたら、もしかしたら知り合いとかいたのかも知れないね。それか、さっきの、」
『行きましょうか?』
澤村先輩の言葉を遮るように言って、荷物を持ち直し前に進む。
信号待ちの間に、ふと空を見上げてみた。
昼間の青から、夕方の、優しい赤に変わっていく空。
澤「綺麗な夕焼けだな・・・」
私に釣られて空を見上げた澤村先輩がポツリと言った。
『・・・澤村先輩がそんな事言うと、ちょっとだけビックリです』
澤「え、何で?」
目をパチくりさせながら私を見る澤村先輩に、ニコリと返す。
『それはですね・・・あ、信号変わった。渡りましょう?』
話初めてすぐに変わった信号を合図に横断歩道を渡る。
『話の続きですけど、夏目漱石が “ I LOVE YOU ”って言う言葉を訳す時に、月が綺麗ですね・・・って訳したそうなんです』
澤「へぇ、そうなんだ?」
『私も知らなかったんですけど、中学の授業の時に英語の先生がサイドストーリーとして授業で教えてくれました』
澤「国語じゃなくて、英語?」
そう返され、1つ頷く。
『英語の先生が凄くそういうのが好きな先生で、男の人に月が綺麗ですねって言われたら、それは愛の告白だと思っていいよって。結婚前なら、プロポーズ、とか?』