第7章 嵐の足音
特に目的もなくブラブラと街中を歩く。
及川先輩のお気に入りだというショップに入り、これはどう?こっちは?とアレコレ決めかねている及川先輩は、どうやら私に1枚を選ばせたがっているようだったので、仕方なしに一緒に選ぶ。
今まで特に私服で会う事なとほとんどなかったから、どんな物が好みなのかなど全然分からなかった私は、いまチョイスして着ている服を基準に選んでおいた。
「紡ちゃんが選んでくれたの、勝負服にするね
」
などと言う及川先輩を見て、思わず笑ってしまった。
「やっと笑ったね?」
言葉の意味がよく分からず、ポカンとしてしまう。
「今日、紡ちゃんに会ってから全然笑わなかったからさ。女の子は笑顔が1番だよ?ね?」
そう言って、あの人がしていたみたいに頭をポンポンっとする。
「そ、そんなことは・・・」
不意打ちに攻撃され、恥ずかしくなった私は顔を逸らしながら答える。
そんな私達のやり取りをみて、ショップ店員のお姉さんが
「お似合いのおふたりですね」
などと微笑ましく言うものだから、及川先輩もおどけながら、
「そうですかぁ?実はそうなんですよ~、とっても可愛いでしょ?彼女!」
などと言って笑いあっていた。
私は顔を逸らしたまま、頬と耳が熱くなっていくのを感じていた。
ショップを出ると、どこへ向かうでもなく再びブラブラと歩き出した。
さすがにこの時期は日が落ちてくると、気温が下がり冷えてくる。
私は自分の手を口元で合わせ、もう少し防寒準備しておけばよかったと思いながら、ハァ~っと息を吹いた。
家を出る時はまだ日差しもあり暖かく、そんなに長居はしないつもりでいたから、そこまでの防寒準備はしていなかった。
「紡ちゃん?ほら?」
立ち止まる及川先輩の方を見ると、私に右の手のひらを向けヒラヒラとさせていた。
『なんですか?その手は?』
訝しげに聞くと、及川先輩は私の手を掴み笑った。
「そんなに警戒しないでよ。こんなに手が冷たくなっちゃってるじゃん。ほら?これで暖かくなるでしょ?」
クスクスと笑いながら、及川先輩は私の左手を掴んだまま、自分のコートのポケットに手を入れる。
確かに暖かい・・・。
ほわんと暖かくなる手に気が緩んでしまう。
・・・・・・・・・ん?
いやいやいやいやいや・・・
そうじゃなくって!