第7章 嵐の足音
腕を捕まえられ、引き戻されたら私はわざと怪訝そうに及川先輩を見る。
『離してください。周りの人から変に思われます』
「あ~ごめんゴメン」
絶対にごめんなど思ってなさそうな作り笑いをしながら、及川先輩はぱっと手を離した。
「あのさ、紡ちゃん?」
『なんですか?』
「岩ちゃんとデートの約束とかないんだったら、これからオレとデートしない?」
『・・・・・・はっ?』
突拍子もない申し出に一瞬面食らった。
『嫌です。ムリです。岩泉先輩と約束がないだけで、他の用事がありますからっ』
失礼だとは思いながらも、及川先輩の顔なんて見ずに早くで答える。
「他の用事って?」
すかさず聞き返され、私もウッカリ口を滑らす。
『7時から兄と、夕飯を外で済ます約束です』
その発言に、及川先輩はチラリと腕時計に目をやる。
「7時からねぇ。まだ、4時にもなっていないみたいだけど?」
しまった。
なんでバカ正直に全て教えてしまったんだろう。
後悔の念が頭をグルグルとまわる。
「それに、ほら?」
及川先輩がスッと指を指した場所を見ると、その指は先ほど手当して貰った絆創膏を指していた。
「まだ、ちゃんとお礼されてないし?お兄さんとの約束の時間までには解放するはからさ、チョーっとだけ、オレに付き合ってよ?ね?」
うっすらと黒い笑みを浮かべた及川先輩は、相変わらず作り笑いのままだった。
手当のお礼・・・と、言われてしまうと、私としてもそれを振り切ってまで拒否することは出来なかった。
してやられたり・・・と思いながらも私は渋々それを受け入れた。
『はぁぁぁ・・・。負けました。買い物でも、荷物持ちでもやりますょ。その代わりタイムリミットは約束してください』
「了~解。じゃ、とりあえず、街をうろうろしよっか?」
『・・・・・・』
拒否権のない私は、オレが持つよ、と言って私の買い物した荷物を受け取ると歩き出す。
仕方ない・・・ちょっとだけ、ちょっとだけと言い聞かせ、私は及川先輩の、半歩後ろを歩き出した。
途中、何度も何度もすれ違う人にキラキラとした眼差しを向けられる及川先輩の姿を、私は気が付かない振りをして歩いた。
はぁ・・・
なんでこんな事になっちゃったんだろう。
私は気分転換に外に出た事を、とても後悔した。