第7章 嵐の足音
『舐めときゃ治りますよ』
「ダメダメ!ちゃんと手当しなきゃ!しかも舐めときゃ治るって、紡ちゃんいつからそんなにワイルドになったのさっ?」
『いつからって言われても・・・元からですよ?』
『もぅ~、いいからそこに座って!』
そういいながら、及川先輩は自分のカバンからハンカチを出すと私に座れと言った花壇の縁に敷いた。
こういうスマートな所がモテる秘訣なんだろうか?
感心していると、及川先輩は更にカバンの中から携帯用のウエットティッシュと絆創膏を取り出した。
男子高校生がそこまで持ち歩いてると、さすがに私も驚く。
『及川先輩、なんて言うか、その・・・女子力高いですね』
「そう?これくらい別にどうってことないよ?」
そうなのか?いや、違うでしょ・・・いや待て待て・・・どちらも持ち合わせていなかった私が女子力低いのか?などと脳内で格闘しているうちに、手際良く手当が終わった。
「はい、出来た」
『あの、重ね重ねありがとうございます・・・』
「んん~?いいのいいの。え~?お礼がしたい?じゃあ・・・ほっぺにチュ~でも」
『!!絶対しません!!!!』
「えぇ、即答~」
せっかく私の中での及川先輩の株が上がったかもと思った途端これですか。
やはり、及川先輩は及川先輩なんだ・・・と笑った。
それから、敷いてくれたハンカチは洗って返します、いいよ別に、そんな訳には・・・の押し問答をくりかえし、結果、強引に私が押し切って先輩のハンカチをカバンに押し込んだ。
「ところでさ、今日はどうしてそんなにオシャレさんなの?いつとの感じと全然違ったから、さっきは一瞬分からなかったよ?」
『いえ、これは別に』
「あ!わかった!もしかして、これから岩ちゃんとデートでしょ?だからこんなにかわいくしちゃってるんだ?」
突然出された名前に、胸の奥が傷んだ。
『いえ、岩泉先輩とは、その・・・そんな約束はありません・・・』
「・・・紡ちゃん?」
明らかに様子が変わった私を見て、及川先輩が首を傾げる。
ダメだ。
これ以上この人と一緒にいたら。
心の中で警鐘が鳴る。
『あの、じゃあ、私はこれで・・・』
サッと挨拶をして踵を返し、そのまま早足で立ち去った。
・・・筈だった。
「紡ちゃん、待って!」
声を掛けられると同時に左腕がクイッと引っ張られた。