第22章 終わりと始まり
普通ならレモン水にハチミツ入れた物ときいたら、単にレモンを切って入れてハチミツ入れて混ぜるだけ・・・とかだろう。
実際、中学の時のキャーキャーうるさい取り巻き女子からの差し入れは、大したことないそんな味だった。
世の中に、それしか飲み物がないのなら飲むしかない・・・その程度の味。
でもこれは違う。
またひと口、そしてまたひと口と飲んでいく。
もしかして、何度も作った?
気がつけば、手渡されたそれは残りが少なくなるほど飲み干してしまっていた。
・・・ワンコのクセに、なかなかやるじゃん。
好みの味に、口元が緩むのを自覚する。
まぁ最も僕は、もう少し甘いのがいいケドね。
残りを口にしながら、無意識に姿を探す。
ステージの前で、山口と笑いながら何かをしているワンコを見つけ、僕はそっちに歩き出した。
近くまで行けば、山口が昨日のお礼だとか言いながらワンコに何かを手渡している。
その包には見覚えがあった。
昨日の帰り道、山口がいかにも女子が好きそうな雑貨屋に入って行き買い物したものだ。
なるほどね、そういう事だったのか。
フン、と鼻を鳴らしながらすぐ隣まで近付いた。
「ポチ」
『ポチ?って、え?私の事?!』
「そう。ワンコから昇格」
『ま、待って?ワンコから昇格って、ポチって結局は犬の名前でしょ!しかも、ネーミングセンスなさすぎる・・・』
せっかく名前がないワンコから名前付きにしてやったのに、ネーミングセンスないとか。
「・・・じゃあ、小さいから、プチ?」
『そうじゃないから!しかも小さいからとか余計だし!』
山「プチ・・・プッククク・・・」
『・・・山口君?怒るよ?』
そんな事を言われてもお構いなしに山口は笑っている。
その目の前にスクイズを突き出す。
「これ、ワンコにしては上出来。もっと・・・甘くしてもいい」
それだけ伝え、背中を向けて歩き出す。
『結局、ワンコって呼ぶんじゃない・・・』
その言葉に僕は足を止め振り返ると、呼び名にこそ文句を言っているけど、空になっているスクイズを嬉しそうに持っていた。
「ポチ、また入れといて」
『だから何でポチ・・・あぁもう、なんか複雑!』
そう小さく叫ぶポチを背後に残し、僕はコートに入った。
ポチ・・・僕だけが呼ぶ名前。
僕しか呼べない名前・・・