第21章 背中合わせの2人
私はそれを手に取り、月島君とタオルを交互に見た。
『あ、ありが・・・』
月「もっとも、僕も使っちゃったから、どこで口元拭いたかなんて分かんないけどね?あぁ~そうそう、もしかしたらもう、顔につけちゃったかも知れないよ?」
イタズラにニヤリとして、月島君がそう言った。
『・・・・・・そ、そんな風に言われたら、使いにくいよ!!』
そう言って手の中にあるタオルを突き出した。
月「1度顔に付いたんだから、2回も3回もかわんないデショ」
私からタオルを受け取り、そのまま私の顔をゴシゴシと拭き始めた。
『わっ、ちょっ、・・・じ、自分で拭くから!』
月「自分で出来なかったから、わざわざ僕が、手伝ってるんだろ」
どれだけ手を伸ばして抵抗しようとも、スラリと伸びた月島君の腕には届かない。
月「はい終了・・・っていうか、小さな犬でも拭いてた気分」
そう言いながら月島君が笑い出す。
『ちょっと!犬って失礼過ぎるでしょ!!・・・月島君、とりあえずタオルありがとう。それ、洗濯して明日にでも返すから』
月「別にいいよ。ちょっとシェアしただけだし」
そう返して、月島君はひょいっと自分の首にタオルをかけてしまった。
そうされとしまうと、私にはもう、どうやってもタオルまで手が届かない。
月「・・・そろそろホントに行かないと、ヤバイんじゃない?2人揃って澤村さんのお説教とか、僕は勘弁なんだけど」
『あ、じゃあ、月島君は先に入ってて。私これ少し飲んでから行くから』
私がマグボトルを見せると、まだ待たされる事に嫌気がしたのか怪訝な顔を向けて来た。
『そんな顔するんだから、先に行っててって言ったのに』
私は構わず蓋を開けると、フワリと甘い香りが漂った。
うん、いつもの桜太にぃのミルクティー。
まだ口も付けていないのに、香りだけで顔が綻んでしまう。
月「甘い香り・・・これはミルクティー・・・」
緩やかな風に乗ったミルクティーの香りが、その場を包んだ。
朝作ったものだから、熱々とは言えない温度ではあるけど、それでも味は変わらず私に元気をくれる。
『美味しい・・・』
“ お兄さんが、元気が出る魔法のアイテムって言ってました ”
さっき武田先生が言っていた言葉を思い出す。
ホント・・・
桜太にぃはいつだって、欲しい時に私に魔法をかけてくれる。