第21章 背中合わせの2人
その方向を向くと、洗顔した雫をタオルで押さえ眼鏡をかける月島君がいた。
月「どんだけ洗うの?さすがに僕だって、傷付くんだけど」
そう言って柱に寄りかかった月島君からは、少し前までの刺々しさは感じられなかった。
『別にそういうつもりじゃ・・・』
月「ふ〜ん?そういうつもりって、どういうつもり?」
口元をニヤリとさせて、そう返される。
『だ、だからっ!・・・うぅ、もう知らない!』
前言撤回!
やっぱり、月島君は月島君だ!
盛大にため息を付きながら、モコモコと膨らんだ泡を一気に洗い流す。
水は少し冷たいけど、顔も洗わなきゃ。
両手を合わせ水を掬い、パシャリと顔にあてる。
ヒンヤリとした感触が、気持ちを引き締めてくれる様で、2度、3度と洗い流す。
体育館に入ったら、まず澤村先輩達に謝って。
それから、私が抜け出した間マネージャー仕事を1人でこなしていたであろう清水先輩と交代して、私が出来る事を一生懸命に頑張ろう。
今日という1日は2度と来ない。
だから、後悔なんかしないように・・・頑張る!
よし!心の洗濯完了!
そう気合いを入れて蛇口を締める。
軽く手を振って水気を飛ばした所で・・・
あれ・・・?
私、タオルどうしたっけ?
水道場の縁を見ても、そこにあるのはマグボトルだけ。
シャツを捲ってみても、そこにはタオルの存在はなかった。
そう言えば、今日たくさんタオル使っちゃってたよね・・・
澤村先輩の傷口を押さえたり、山口君の手を冷やすのに使ったり、鼻血の手当に何枚も使ってしまった。
もしかして、いや、もしかしなくても。
タオル、持ち合わせていない?!
やっぱり私、女子力低い?!
マズった・・・そう今更思っても遅く、手も顔も水に濡れている。
これはもう、自然乾燥を決め込むしかない。
そう考えて、顔の水滴を手で押さえて払った。
月「ハァ・・・さっきからさ、何してんの?」
ため息混じりに聞かれ、まさかタオルを持ち合わせていなかったなんて言えるハズもなく、振り向きながら苦笑を見せる。
『あはは・・・ちょっと諸事情が、っわぷ』
突然顔に何かを押し付けれ、視界が遮られた。
月「諸事情って、タオルないんデショ?これでよければドーゾ?」
月島君の言葉で、顔に押し当てられた物がタオルだと判明する。