第21章 背中合わせの2人
武「えぇ?本物の教師なのになぁ。僕は専攻は現国ですが、それ以外の教科も苦手な物はありませんでしたから。・・・体育は別ですけど」
なんとなく想像がついて、笑ってしまった。
武「笑いましたね?でも、ここだけの話、そういった事も含めて男子バレー部の顧問の話を持ち掛けられた時、実は1度断っているんです」
『本当ですか?!』
武田「運動に関わって来なかった僕が、運動部の、それも男子バレー部の顧問なんか出来るわけがないって。でも、悩んで悩んで自分で考えて。真っ当な指導が出来なくても、それ以外で僕が頑張ればいい、むしろ僕にしか出来ない事があるかも知れない、そう考え直して顧問を引き受けたんです。だから城戸さんの気持ちは僕にも分かりました」
最後の最後まで、私が話した事を分かってくれて、とても嬉しかった。
『武田先生・・・ありがとうございます』
武「さ、いつまでも練習抜けたらダメですよ?なんでも澤村君は、怒ると凄~く怖いらしいですから。2人とも、体育館へ戻りましょう」
軽く笑って、先生は私達の背中をそっと押しながら歩き出した。
月島君は勿論の事、誰も何も話さず歩く。
そもそも体育館からそんなに離れた場所にいたわけじゃないから、ひとたび歩き出してしまえばすぐに到着してしまう。
体育館の扉は閉まっていても、ボールの弾む音や、みんなの声が聞こえる。
スタスタと扉の前に行った武田先生が振り返り、開けますよ?と目で合図をしてくる。
『先生待って。・・・あ、の・・・私。顔洗ってからに、しようかな?なんて。それからコレ、ありがとうございました』
肩に羽織らせてくれた上着を丁寧に畳んで返した。
でも、少しでも滲ませた目を誤魔化したかったのと、月島君と揃って中に入る事に戸惑ったから。
だからそう言って水道場に向かい蛇口に手を掛けた。
武「そうですか。分かりました。じゃ、月島君と先に入ってますね」
月「あ、僕も」
思いがけない言葉に、思わず蛇口を回した手が止まる。
・・・僕、も?
近付いてくる気配に意識を向けると、その気配は3つ隣で止まり、水音を立て始めた。
意識しない、意識しない・・・
心でそう唱えながら、備え付けの石鹸を泡立てては流し、を繰り返していた。
ふと、視線を感じる。