第21章 背中合わせの2人
隣同士にいながらも、お互い反対の方向に体を向けて立っている私達を見ながら、武田先生が穏やかに言った。
『磁石・・・ですか?』
私がそう返すと、武田先生はニコリと笑って頷いた。
武「磁石には、N極とS極があるのは知っていますよね?でもそれを知っているのは人間だけで、実は磁石自体は己がそうだとは分らないんです。だから、もし磁石を真ん中から切り離して単体にしたとしても、それぞれが反対の極を自然と作り出してしまう。本当はすぐ後ろにお互いがあるというのに、見えていないんです」
僕が言ってる事、分かりますか?と、武田先生が笑う。
説明されている事は、なんとなくボンヤリと分かる気がする。
でも、なぜ私達が磁石の様だと言っている事は、よく分からないでいた。
『あの・・・それが私達と、どんな関係があるんですか?』
私が問い返すと、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに胸を張って、先生が続きを話し出した。
武「あなた達2人は、磁石と同じなんです。それぞれ似ている所も反発しあってしまう所も持ち合わせているのに、そんな風にお互い背中を向けているから、そうと気づかない。だから、ほら・・・」
先生はそう言いながら私の両肩に手を置きクルリと反転させ月島君の方に向け、月島君の腕を取ると、同じ様に反転させた。
武「こうやって後ろを振り返れば、ちゃんとお互いの存在が分かるのに、それが出来ない。でもそれは磁石という無機物だからで、僕達は感情を持ち合わせた人間です。だからこうやって自分の意思で向き合い、互いの存在を見つめ直すことも出来る」
そう言って先生は私の手を取り月島君の体に触れさせ、月島君の手をも取って、私の頬に触れさせた。
武「今、あなた達の瞳には、何が映っていますか?」
穏やかに微笑みを向けながら、武田先生は私達を見る。
・・・私達の、瞳?
言われるまま、自然と私は顔をあげ月島君の顔を見た。
それは月島君も同じで、お互い触れ合ったまま見つめ合う形になった。
時間が止まっている、そうも感じさせる空気に飲まれそうになる。
月「・・・ちょっと?見過ぎなんだけど」
『つ、月島君だって同じでしょ!』
武「ほら、磁石みたいでしょ?同じ極同士だと反発しちゃうところとか」
すかさず先生に突っ込まれ、もう何も言えなくなる。
『なんか、国語の先生っぽくない』