第21章 背中合わせの2人
『はい。なのにブロック成功しても両手を上げて喜ぶわけでもなく、常に冷静な顔してて。それに、サーブだってキレイ。レシーブは・・・ちょっと苦手っぽい気がしますけど。ホント、羨ましいなぁって』
「フフッ、バレーの事ばかりですね、城戸さんは」
あまりに熱心に月島君の事を話し出した城戸さんが可愛らしくて、目を細めてしまう。
『だって、私には何ひとつないものを月島君は持ってるから。私はこんなに背が小さくて、スパイクやブロックなんて出来ないし、バレーの中ではセッターとリベロを少し齧ってるだけたし。ねぇ、先生?今度、体育館に1日いてみて下さい。月島君のブロック、きっと見れるから』
「城戸さんのお勧めとあれば、是非そうしてみましょう」
絶対ですよ?と城戸さんに念押しされ、約束しますとそれに答えた。
『それからもう一つ。これは山口君にも話したけど、どんなに私が頑張っても、いざ公式戦ともなればルール上、私はみんなと同じコートに立つことは出来ない。性別が女ってだけで、容赦なく。だから、月島君にはもうちょっとだけでいいから、周りの人に歩み寄って欲しいと思うんです』
「それはどうしてですか?あ、どうしてって、聞くのもおかしな話ですけど・・・」
僕の方がしどろもどろになってしまった事に、お互い顔を合わせて笑ってしまう。
うん、城戸さんはさっきよりも随分と明るい表情になった来たと思う。
『バレーは同じコートに6人いるんです。点が取れれば肩を叩きあって歓喜して、失敗しても肩を叩きあって励ましあう。自分達が分が悪くなれば必ず焦りも出る。でもそんな時、月島君みたいなクレバーな選手がいたら、面白いと思いませんか?だから、その頭脳が生かせる様に、歩み寄って欲しい・・・』
「歩み寄る事で、自らも周りも動きやすくなるから、ですか?」
僕が問い返すと、コクリと頷いた。
『言ってくれなきゃ分らない、聞いてくれなきゃ分らない、団体競技ってそういう所あるから。別になかよしこよしをして欲しいって言ってる訳じゃないんです。ただ、もう少し言葉のキャッチボールは必要かなって』
「城戸さんは、月島君とは付き合い長いんですか?」
こんなにも一生懸命に話すから、きっと長い付き合いなんだろうなと思い、聞いてみる。
すると城戸さんは笑いながら、つい数日前からの知り合いだと言った。