第21章 背中合わせの2人
『せっ、先生?!』
「ああっ、すみませんすみませんっ!ちょっと確認したい事があってですね・・・」
驚かれた事に驚いて、触れていた手を引っ込めた。
よく考えれば、僕が最初に体育館に顔を出した時、澤村君達に混ざってバレーをしていたんだった。
体を動かして汗をかいて、いくら春だと言っても夕方になれば気温が下がれば体が冷えてしまうのは当然と言えば当然だ。
更に、その夕方の気温が下がっている時に、ブカブカのシャツとハーフパンツ姿。
体温を奪ってくださいと言わんばかりの格好。
こんな姿で、無防備に外に出ると言うことは、それほど切羽詰まった何があったのだろう。
「隣、いいですか?」
さすがにいきなり隣に腰掛ける訳には行かず、ひと声かける。
『あ、はい。どうぞ』
「じゃ、遠慮なく・・・あ、そうだ」
そう言って、僕はジャージの上を脱ぎ城戸さんに掛けた。
『先生?』
「女性が体を冷やすのはよくありませんよ?」
『でも先生が着ていた物なのに・・・』
「あぁ、昨日持ち帰って洗濯したばかりですからご心配には及びませんよ?」
『えっ?!あ、違っ!そうじゃなくて、先生が着ていたのをお借りしたら、先生が寒くなっちゃうんじゃないかって』
顔を真っ赤にして両手をパタパタとしながら慌てる姿がとても可愛らしく感じて、思わず笑みをこぼしてしまう。
・・・ん?
いやいや、僕は教師であって、直接の教え子ではないにしても、彼女は勤務している学校の生徒だ。
い、今のはナシ。
神様、今のは聞かなかったことにして下さい。
両手を顔に当て、そう神様にお願いをする。
『どうしたんですか?』
「ちょっと神様にお願いを・・・じゃなくて、いえ、なんでもありません」
さっき思った事を知られてしまっては、僕はこれから先ずっと、おかしな教師だと思われてしまうではないか。
危ない危ない、気をつけなければ。
城戸さんに気付かれないように、そっと息を吐いた。
「それより、なぜここに?」
僕がそう聞くと、城戸さんの表情が陰り、また膝を抱えてしまった。
「僕でよければ、話を聞きますよ?ちょっと、頼りないかも知れませんが、誰かに話す事で自分を客観的に見る事も出来るでしょう?」
すると城戸さんは顔を上げ、膝を抱えたまま話し出した。
『先生・・・私は必要ですか?』