第21章 背中合わせの2人
「澤村君に面と向かってそう言われると、照れちゃいますよ。それに、これからもドンドン頑張らなきゃという気持ちにもなります」
澤「あ、でも先生!土下座はやめてくださいよ?」
澤村君に念を押され、分かってますと返した。
「では、僕は行きますね」
そう言い残して、菅原君に教えて貰った場所へと歩き出した。
その場にいた人間が知らなかった場所を知っていた菅原君に、なぜ見当が付くのか問うと、そこでよく昼休みに1人でお弁当を食べていたからだと言っていた。
あんなに人懐っこい城戸さんが、1人で?
そんな風に感じたけど、人間誰でも1人になりたい時はあるものだと思い直す。
・・・えっと?
菅原君の説明だと、体育館前の校舎を曲がった先の階段脇・・・って言ってましたよね?
周りをキョロキョロと見渡しながら、ゆっくりと歩く。
ん・・・?
見つけました!
菅原君が教えてくれた場所に、小さな影がポツンと見えた。
膝を抱え込むように腕を伸ばし、顔を伏せて。
僕はホッと息をつき、城戸さんのいる所へ歩き出した。
「城戸さん?」
そっと近寄り、呼び掛けながら足を止める。
城戸さんは、ほんの一瞬だけ肩を跳ねさせ、ゆっくりと顔をあげた。
『武田先生・・・どうしてここに・・・?』
声をかけた主が僕だと分かると、城戸さんは目を丸くして瞬きを繰り返した。
「菅原君が、もしかしたらこの場所にいるんじゃないか?って教えてくれたので、様子を見に来ちゃいました」
『来ちゃいました・・・って。先生、体育館は?』
「部の事だったら澤村君達がいるから大丈夫でしょう。それに今は、あなたのお兄さんもいる」
お兄さんの事を言って、預かっていたマグボトルの事を思い出す。
うっかり忘れては、お兄さんに申し訳ない。
「城戸さん?これをお兄さんから預かって来ました」
そう言って、マグボトルを城戸さんの他に持たせた。
『桜太にぃから、ですか?』
「えぇ、元気が出る魔法のアイテムだと言ってましたよ?」
触れた城戸さんの指先が、ヒンヤリしている。
僕の体温が高いのだろうか?
そう思ったりもしたけど、それにしても・・・
「城戸さん、ちょっと失礼しますね?」
ひとこと断って、頬や首筋を触ってみる。
これは僕の体温が高いのではなく、この子の体が冷えているんだ。