第21章 背中合わせの2人
~武田一鉄side~
月島君の大きな声で、それまでの空気が一転して変わった。
普段から物静からしい彼が声を上げる姿など僕は想像もしていなかったから、正直、驚いていた。
最も、放課後はあちこちに練習試合や合同練習の電話をかけては断られの繰り返しで、部活動の事は澤村君たちに任せっぱなしで体育館にあまり来れていないと言うのもあるけれど。
それにしても、澤村君が仲裁に入ろうとしていた所を止めたお兄さんは、一体どういう考えでいるのだろうか。
そんな事を考えていると、澤村君と話す城戸さんのお兄さんの話が聞こえた。
桜「・・・紡は変わろうとしてる。それはこの部にも必要だと思うよ?」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべている。
言われた澤村君達も、その意図が汲みきれないのか、首をかしげている。
「あの、僕もこの部に必要って言う意味が、よく分からないのですが・・・それはどういった含みが?」
思わず聞いてみる。
本来、顧問である僕が部員の事は理解していないといけない立場でしょうけど、情けない事にそうではない。
桜「紡は、細かい事情は本人しか分かりませんが、ある日突然走り続ける事をやめてしまったんです。それからずっと殻に閉じこもって、出ようとしなかった。もちろん、殻の外を叩いても、殻が割れることもなかった。だけど・・・」
そう言ってお兄さんは、とても優しい瞳で彼女のいる方を見る。
穏やかで慈愛に満ちたその顔は、同性の僕が見ても心が暖かくなる・・・そう感じさせるようだった。
桜「あくまでも推測の域ですが。あの背の高い彼は、コミュニケーションを取るのが苦手な気がします。練習中や今みたいな休憩を見ても、周りとの距離があるような、そんな気が」
「なるほど・・・確かにそう言われると、そんな気がしますね」
桜「でも、紡はその逆で。さっき先生が言われていたように末っ子の特権で、甘えたり自分に気を引き付けたくて人懐っこい。本人にその自覚はないでしょうけど、そういった所は彼とは正反対だ。だから紡も、彼の対応に戸惑って手探りで歩み寄る方法を探してる。彼もそう。」
「月島君が、ですか?」
桜「きっと彼は他人と関わるのが面倒で、いつも距離を置いているんでしょう。ここからこっちは入ってくるなー、みたいな。でも紡はお構い無しに足を踏み入れた。そこまで大きな歩幅でないけど・・・」