第21章 背中合わせの2人
~澤村side~
ステージの前で、俺達は月島と城戸さんの様子を見ていた。
スガは今にも駆け寄り出しそうにしているけど、桜太さんに止められた事もあり踏み止まっている。
清「澤村、止めなくていいの?」
木下達にスクイズを渡し終えた清水が、心配そうに俺に聞いてくる。
「いや、止めに行こうと思ったんだけど・・・」
そう返して、桜太さんを振り返った。
桜「ん?大丈夫だって。あの背の高い彼だって、さすがにいきなり殴ったりとかはしないでしょ?まぁ、そうなったら紡もやり返すかも知れないから、謝る覚悟は出来てるよ」
さっきと変わらず、桜太さんは穏やかに笑う。
清「あの、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」
桜「俺?う~ん、そうだなぁ・・・正確には落ち着いては、いないんだけどね?内心はハラハラしてるよ。そうは見えない?」
「見えませんって。凄く落ち着いて見えてます、な?清水」
俺の答えに清水も頷いた。
桜「そう?でも、昔から俺はそんな風に見られてたから、成長してないのかなぁ」
そう言いながら桜太さんはクスクスと笑っていた。
桜「でも、もしここにいたのが俺じゃなくて慧太だったら、間違いなく誰より先にスッ飛んで行くと思うけどね」
・・・あぁ、何となくそのビジョンが浮かびます。
桜「それにね。今のこの現状は、紡にとっても、この部にとっても、大事な事だと思うよ。例えあんな風にしていても」
「・・・あれが、ですか?」
桜太さんに言われ、スガも清水も視線を移した。
桜「紡は子供の頃から、何か上手くいかないと泣いたり、喚いたりして両親や俺達が手を差し出すのを待ってた。ホントは自分で出来ることでさえ、誰かの気を引きたくて甘えたり」
武「末っ子の特権、という感じでしょうか」
それまで黙っていた武田先生が会話に入って来た。
桜「えぇ、例えるならそれですね。それに、俺達と紡は歳も離れているから、そんな時は俺達も無条件で甘えさせていた。でも今、紡は変わり始めている」
そう話す桜太さんは、とても穏やかな顔で城戸さんを見ている。
それに、なぜか嬉しそうにも見える。
そんな桜太さんを不思議に思いながら、俺は月島達の方を向いた。
するといつの間にか、城戸さんの肩を掴んでいた月島が体育館から出ようとしている所を、城戸さんが間に割って入っていた。