第21章 背中合わせの2人
『お騒がせしてすみませんでした。私は大丈夫ですから、ご心配なく。こういう場合、心を痛めているのは・・・きっと向こうの方だから』
菅「紡ちゃん・・・」
『あー、ビックリした!月島君すぐ怒るし、きっとカルシウム足りないんですね?清水先輩、今度は月島君のドリンクに、カルシウム粉末をたくさんいれてあげましょ?』
清「・・・そうね」
清水先輩が私の言葉に微笑みながら小さく答えた。
そして私は菅原先輩の方に体を向けた。
『菅原先輩、お願いがあるんですけど・・・』
菅「お願い?」
『はい。頭を冷やしたいので、時間、貰えますか?』
菅「それはいいけど。お願いがあるっていうから、ギューの方かと期待しちゃったよ」
菅原先輩がおどけて手を広げ肩をすくめてみせた。
清「・・・菅原はまた」
そう言う清水先輩に、菅原先輩は苦笑する。
菅「ですよねぇ~」
その場にいた私達は、穏やかに笑い合った。
でも、菅原先輩はいつもそうやっておどけて見せてくれて、空気を和らげてくれる。
だから、この部はきっと和やかなチームでいられるんだなぁと感じた。
『菅原先輩?』
小さく声をかけ、菅原先輩が真っ直ぐ私を見るのを確認してから、その体を軽く抱きしめた。
菅「・・・!つ、紡ちゃん?!」
普段は菅原先輩がところ構わず抱きついてくるのに、逆の立場になったら慌てている。
そんな菅原先輩がおかしくて、顔を見あげて笑った。
『菅原先輩、いつもセクハラ大王で和ませてくれて、ありがとうございます』
菅「いや、だから紡ちゃん、その異名はやめてって!」
清「頑張れ、セクハラ大王」
そう笑いながら、清水先輩が菅原先輩の肩を叩いた。
私は菅原先輩の体を離すと、肩から掛けていたテーピングセットを外し、清水先輩にかけた。
『清水先輩、私がいなくなった後、誰かに何かあったら、これ、使ってください。・・・清水先輩に託します・・・』
私がそう言うと、清水先輩はなぜか神妙な顔をしていたけど、そのまま預けた。
『それじゃ菅原先輩、城戸紡、心の洗濯をしてきます!』
そう言って、菅原先輩の返事を待たずに体育館を出た。
返事を待たなかったんじゃない・・・
待てなかったんだ・・・
もう、心がキャパオーバーで、色々な気待ちが溢れそうだったから。
滲む視界を押さえて、私は歩き出した。