第21章 背中合わせの2人
それは、レシーブの基本的な練習。
絶対に飛び込みはしない、ケガした手だけでボールを当てない、そして最大の条件は無理をしない事。
「山口、行けそうか?」
そう声をかけながら山口を見ると、返事を貰うまでもなく目を輝かせていた。
レシーブ練習させるなら、相手が必要だ。
こういう時に面倒見がよくて、根気よく教えられるのは・・・アイツが適任だろうな。
スガでもいいけど、これからスパイク練習に移ることを考えたら、スガは貴重なセッターだし。
そう考え、山口の準備を確認してコートの中に声をかけた。
「縁下!ちょっといい?」
縁「はい!」
縁下に声をかけると、すぐにボールを置き駆け足で来る。
「今から山口を見て欲しいんだけど、頼めるか?」
縁「大丈夫ですけど・・・ケガの方は?」
縁下の言葉に、桜太さんがさっきの条件を話してくれる。
縁「なるほど・・・分かりました。じゃあ、山口。行こうか?」
山「はい!よろしくお願いします!」
体育館の端に行き練習を始める2人を見て、桜太さんが微笑んでいた。
桜「山口君は、何だかとても嬉しそうに練習をするんだね」
「はい・・・実は今度、青葉城西との練習試合があるんですけど、入部した1年の中で山口だけコートに入れてないんです」
桜「それは?」
「武田先生が取り次いでくれた練習試合をするには、条件を出されていて・・・影山をセッターでフルに出せって。そうなると影山と日向はセットで試してみたいし、月島はうちの部では数少ない高身長で、後は田中と俺と縁下・・・」
別に意地悪で山口を外した訳でないのに、何だか少し罪悪感を感じた。
もしかしたら、俺は外れて外から指示を出したりする方が良策なのか?
そんな事さえ浮かんできてしまう。
「1年で山口だけ外れた上に、今日のケガが重なって落ち込んでいると思うんです。最初、城戸さんがケガに気がつくまでは山口もそれを黙っていたし」
桜「紡が?」
「はい・・・午前中はあの、城戸さんにも入って貰って試合形式の練習をしていて、その終わりの頃にケガをした様なんですけど、誰も気が付かなくて。それで、城戸さんが山口に駆け寄ったと思ったらケガの事を聞いていて。なんか主将として失格ですよね」
ハァ・・・と息を吐き、嬉しそうに縁下と練習をしている山口を見た。
桜「主将失格ではないよ」