第20章 心の拠り所
それから暫くして、山口君の鼻血が落ち着いて来た頃、校舎の角を曲がって歩いて来る見慣れた姿を見つけた。
『桜太にぃ!』
手当ての途中だと言う事を忘れ、思わず手を振る。
そんな私の姿を見つけると、大きな紙袋を抱えた桜太にぃは静かに笑いながら足を早めた。
武「城戸さんのお兄さんですか?僕は顧問の武田といいます」
桜「紡がお世話になってます。兄の城戸桜太です。これは部員の皆さんに・・・」
そう言って桜太にぃは、大きな紙袋を武田先生に渡していた。
あれは確か駅前の・・・
いつだったか及川先輩にマフラーを返しに行った時、差し入れですって渡したドーナツ屋さんの紙袋と同じ。
武「こんなにたくさん、ありがとうございます。きっとみんなも喜びます。澤村君、差し入れを頂きました」
それを聞いて澤村先輩も、お礼を言いながら頭を下げた。
桜「気にせず食べて?それよりも、紡?この惨状はいったい?ケガ人がいるとは聞いてたけど、大けがだったっけ?」
辺りを見回し、桜太にぃが私に聞いてくる。
私達の周りには、鼻血を押さえた時の血だらけのタオルやら、鼻に詰めては取り替えたティッシュのゴミを入れたビニールなどが散らかっていて、それらを処理してきた私と山口君の手も血に汚れていた。
『あ、あはは・・・これには色々とわけがありましてですね・・・』
説明しようにも、どう説明したらいいのか分からず言葉を濁していると澤村先輩が間に入り簡単に説明してくれた。
・・・もちろん、顔を胸に・・・の当たりは話さずに。
桜「それにしても凄い惨状だね?えっと・・・?」
山「・・・山口です」
桜「山口君、ちょっと見せて貰っていいかな?」
桜太にぃが言うと、山口君は押さえていた手を離し、桜太にぃの方へ顔を上げた。
桜「もうほとんどとまってるようだから、1度顔を洗っておいで?あ、鼻の周りはあまり触らないようにね?紡も手洗いして来なさい。・・・澤村君、その指は?」
澤「あ、これはちょっと指を切ってしまって。でも、その場に城戸さんが居たので手当てはして貰いました」
桜「いつ?」
澤「午前中、ですけど・・・」
桜「午前中?じゃ、澤村君も今それ剥がすから手洗いしてきて。もう1度消毒して、巻き直すから」
次から次へと桜太にぃは指示を出し、武田先生に救急箱をお願いしていた。