第20章 心の拠り所
田「ときに、お嬢・・・?」
『まだ何か?』
ぼそぼそと歯切れの悪い田中先輩に返事をする。
田「あ~。そのままだと山口は窒息するんじゃないかと・・・?」
窒息?!
田中先輩が指さす場所を見ると、さっき奪い返した山口君の頭を自分の胸に押し付けたままだった。
『ご、ゴメン山口君!』
慌てて解放すると山口君は柱に手をついて、ハァ・・・と息を吐いた。
山「ちょっと、顔洗ってくる」
そう言って山口君はフラリと水道場まで歩いて行った。
影「何やってんだオマエは!」
影山に小突かれ、わざとじゃないんだからと言い合いをしていると、水道場で手を洗っていた日向君が慌てだした。
日「き、城戸さん早く来て!ヤバイ!山口がヤバイ!」
青ざめた日向君に呼ばれ、何事かと駆け寄る。
日「や、山口が血だらけ!」
言われて山口君を覗き込むと、急に出た鼻血に驚いたのか、手のひらで鼻を押さえていた。
『これは大変だ・・・影山!そこにある私のタオル持ってきて!それから清水先輩、私のカバン開けていいので冷却ジェルお願いします!』
清「分かった」
田「ギャハハハ!興奮して鼻血出るとか、山口も男だな!」
お腹を抱えながら田中先輩は笑い転げていた。
『澤村先輩!田中先輩を引っ込めて下さい!』
澤「ほら田中!お前は体育館入っておとなしくしてろ!他のみんなも入った入った!スガ、中のこと頼むわ」
澤村先輩のテキパキとした物言いに部員はすぐに動く。
菅原先輩はそんな澤村先輩にハイハイとふたつ返事をして扉を閉めた。
武「賑やかですねぇ、元気なのはいい事ですよ」
澤「先生、そんな呑気な・・・」
清「城戸さん、これでいい?」
清水先輩が冷却ジェルを持って走って来た。
『ありがとうございます。本来は私が行くべきなのに、すみません・・・』
清「そんなの気にしないの。動ける時に動ける人が、でしょ?それより、澤村。山口はどう?まだ止まらない?」
澤「さっき程じゃないけど、まだちょっと」
清「ま、山口の気持ちも分かるよ。女の私だって、その胸に顔つけたら鼻血くらい出ちゃうかも」
清水先輩が私の胸をツンとつついた。
澤「清水?!」
ふふふっと笑って、後は任せるねと清水先輩は体育館へ戻って行った。
その姿を見て、今日は何かと流血に見舞われる日だなと、小さく息をついた。