第6章 1歩前へ・・・
父「ただし、ひとつだけ約束しなさい」
父が出した約束というのは、決して後悔だけはしない事・・・
私とそのひとつを約束して、父は静かに席を立ち、リビングから出ていった。
母は、良かったね・・・と微笑んで父の後を追いかけていく。
慧太にぃは、なにか不満そうな雰囲気で黙って自分の部屋に行ってしまった。
きっと、慧太にぃは怒ってるんだろう。
普段から、あんな不機嫌な態度はしないから。
不安気に瞳を揺らしながら、その姿を見送ると、不意にポンッと頭に手を乗せられる。
『桜太にぃ・・・』
桜「良かったね」
『でも慧太にぃが・・・』
桜「慧太の事は大丈夫だよ。俺らはずっとバレーに夢中になってきたのに、ポンッて紡が外れてしまう事に、気持ちの処理がついてこれないだけだから。」
柔らかく微笑んだ桜太にぃは、大丈夫、大丈夫と言って何度も頭をポンポンしてくれた。
桜「ところで・・・紡?推薦全部断って、紡が行こうと決めた高校はどこ?名門と謳われてる所も、強豪と名を馳せてる所も推薦で来てたよね?」
その後、リビングに残された2人分の飲み物を入れ直し戻ってきた桜太にぃが話し出す。
『えっと・・・地元のすぐ近くの・・・烏野高校に決めようと思ってる。ちょっと歩けば通えるし、そこなら・・・』
バレーボールに関しては、あまり名前を聞かないし・・・
後半に関しては口には出さず、心の中でだけ呟いた。
桜「烏野・・・かぁ・・・小さな巨人のとこね・・・」
『小さな・・・巨人?』
桜「ん?あぁ、紡は知らないか・・・」
フッと笑って、桜太にぃは、烏野男子バレー部に« 小さな巨人»と呼ばれた選手がいた事や、そのチームを指導していたのは兄達が子供の頃に入っていたクラブチームの監督じいちゃんだった事などを教えてくれた。
『えっ!?烏養のじっちゃが教えてたの?』
桜「紡はまだ小さかったから、そんな有名な事までは分からなかったのかもね。その頃の紡はバレーより烏養監督の事が大好きで、練習の合間を狙ってはベッタリ甘えん坊してたから」
確かにそうかも?と納得する。
兄達がちょくちょく教えた貰いに言っていた所に私も一緒に言っていたけど、練習中こそ鬼のような出で立ちでいたけど、それ以外はホントのじいちゃんの様に構ってくれたじっちゃが、私はとにかく大好きで、隙をみては甘えていた。