第6章 1歩前へ・・・
桜「紡・・・。俺はさ、いつか紡がそう言い出すんじゃないかなって、思ってたよ?」
桜太にぃの言葉に、驚いて顔を上げる。
『どう・・・して?』
桜「ん~、2週間くらい前かな?実はさ、紡の担任の先生から電話があって。それで、いろいろ話を聞いてたから。紡、バレー関係で来てる推薦の話を全部断りたいって言ったんだって?それで、担任の先生が、紡が進路を悩んでいるようだからご家庭でよく話し合って下さいって、心配してた」
進路面談での担任とのやり取りを黙っていたバツの悪さから、私は目をそらし俯いた。
慧「はっ?桜太知ってたんなら、どうして誰にも言わないんだよ!」
桜「こういうのって、周りの人間が突き詰めてもうまく行かないだろ?だから、紡から話してくるの待ってた」
桜太にぃの言葉に、両親も慧太にぃも驚いていたけど、ずっと言い出せずにいた私としては、それが逆に有難かった。
母「それで、紡はどうしてバレーをやめたいと思ったの?今まであんなに楽しそうに頑張って来てたのに、まずはその理由を教えてくれないと、お父さんもお母さんも、ちゃんと話が出来ないよ?」
もっともな言葉をかけられ、私は黙り込む。
確かにバレーは好きだし、今までもどんなに辛い練習があっても、その先にある何かを目指して頑張れた。
でも・・・
慧「紡!黙ってたって何も変わんねーだろ!」
桜「慧太」
黙り続ける私に苛立った慧太にぃを桜太にぃが静かに止める。
『私・・・』
本当は私・・・逃げてるのかも知れない。
バレーを続けていたら、いつか再会してしまうかも知れないあの人のことを・・・
でも、でも今は・・・逃げだと言われてもいい。
私はあの人の事だけ端折って、みんなに全部話した。
今までバレーボール一筋でやって来たけど、これからは少し違った事をしてみたい。
もしかしたら、また、バレーボールやりたいなって思うかもしれないけど、でも今は、自分の思うように道を選んでみたい。
またやりたいって思った時は、その時はもう遅いって思うかもしれない。
でも、今はそれでいいと言う事をみんなにぶつけた。
自分の考えを話し終わると、暫くの間、沈黙が続いた。
ふぅ・・・と、父が息を吐くと席を立ち上がる。
父「紡・・・自分の思うままに、道を進みなさい」
父の言葉に顔をあげる。
お互いに視線が会う。