第19章 傷痕
『じゃ、山口君。先にシャツ着替えちゃって?その間に私もこっち準備しとくから』
山口君にそう声をかけると、1度手を離してそれぞれ荷物のところに向かう。
応急手当の準備自体は出来てるんだけど、私も着替えたかったし。
・・・あ!
そうだ、私シャツなかったんだ!
どうしようかと考えていると、さっき脱いだジャージの上着が目に入る。
これしか方法はないよね?
そう自答して、それを掴んでステージによじ登りカーテンの陰へと移動する。
まだみんな練習してるから、ここで着替えちゃえ。
パッとシャツを脱ぎ、素肌の上にジャージを着込む。
・・・ってか暑っ!
袖を肘まで捲り、ファスナーは胸元が見ない程度の所まで少し緩めた。
ステージ脇の鏡で、下に着ていないのがバレないか確認をした。
よし、大丈夫。
さっき山口君がビックリするような事を言うから、妙に変な空気が流れちゃったし。
だからこんな格好がバレたら、変なヤツだと思われちゃうからね。
でも、タオルの共用くらいでそんなに気を使わなくても良いのに。
カーテンの向こうを覗くと、山口君は既に着替え終わっている。
テーピングセットを肩に掛け直しながら、私は山口君の所へ戻った。
『お待たせ。じゃ、早速手を冷やそ?』
冷却ジェルのパックをパンッ!と叩き、中の液体が良く混ざるように何度か揉む。
それはすぐに冷たくなっていき、患部を冷やし過ぎないようにハンドタオルで包んでから山口君の手に当てた。
5分ほど冷やして、今度は裏側からも冷やす。
それを何度かくり返しているうちに、澤村先輩がみんなにお昼休憩を告げ、ワラワラとステージの前に人が集まってくる。
私達は邪魔にならないように手を冷却しながら少し場所を移動した。
澤「山口のケガの状態はどう?」
声を掛けられ、顔を上げると澤村先輩と菅原先輩が心配そうに様子を見に来た。
『極端に腫れてるわけじゃないんですけど、まだ冷やしていた方がいいかな?と思います。一応、見て下さい』
私はそう答え、山口君の手をそっと2人の前に出した。
澤「あー、腫れてると言えば、腫れてるな。利き腕だし、午後は見学にしとこうか」
山「お、オレやれます!」
澤村先輩の判断に、山口君が練習に参加できると言い出す。
気持ちは分かるけど、やめた方がいい。
私は澤村先輩に向けて首を振った。