第19章 傷痕
『いいのいいの。私もさ、手指をケガした時に上手く洗えない時は、家で兄に洗って貰った事があるから』
「えっ?お兄さんに?!」
つい、思った事が口を飛び出す。
『そ。私も自分で洗えるって言ったんだけど、こういう時こそ少しの事でも誰かに手伝って貰うと楽でしょ?けが人は黙ってなさいって』
フフッと笑いながら城戸さんは続けた。
『私の兄は、お医者さんでね。消毒とか、ケガとかに凄い敏感でね。病院では小さい子を担当してるから、多分私の事も病院の小さい子供たちと同じ扱いなんじゃないかなぁ』
「もう、大人なのにね?」
ポツリと返すと、城戸さんも笑った。
『ね?もう大人なんだけどさ。兄が言うにはそう思ってるのは自分だけで、回りから見たらまだまだなんだって。大人扱いして欲しいよね~』
子供扱いって言うのは、きっと影山が城戸さんの事をお子様って呼んだり、ツッキーが小さい人って呼んだりするのとは違う。
家族だからこその、子供扱いだと思った。
そう感じるのは、城戸さんがその話をしている時の表情がやわらかだったから。
『はい、おしまい。ね、ついでだから顔も洗っちゃいなよ?自分で洗える?』
「や、それ位は出来るって!」
さすがに顔を洗って貰うとか、男としてダメでしょ。
バシャバシャと水音を立てながら顔を洗う。
水洗いするだけでも汗が洗い落とせて、なんかいろいろスッキリした。
「あ、タオル出してなかったんだ・・・」
至るところがビショビショのまま顔を上げると、横からタオルが差し出される。
『どうぞ?さすがに山口君のカバンを開けるわけにはいかないから、これ使って?』
「いや、でも、それじゃ城戸さんが・・・」
そう言って返して、オレは着ているシャツで拭こうとして、それを盛大に止められた。
『せっかく洗ったのに、それじゃ意味ないでしょ?だから使って?それに、けが人は?』
「・・・黙ってなさい?」
『でしょ?』
2人で向き合って笑い出す。
じゃあ、とタオルを受け取りポンポンと顔を拭き、そのまま手を拭かせて貰った。
『私もついでに顔洗っちゃおっかな?』
「え!でもタオルいまオレ使っちゃったけどっ」
『大丈夫。別に気にしないから』
そう言い残して、顔を洗い始める。
気にしないから・・・って。
オレは、ちょっと気になっちゃうけど。