第6章 1歩前へ・・・
激動のあの日から、時間は立ち止まることなく流れていき、学生達には受験戦争追い込み期間という時期でもあるクリスマスシーズンへと入っていた。
こんな大事なときにゴメンね・・・といいながら、大学病院で医師を勤める両親から驚愕の話が持ち出された。
それは、兼ねてからずっと思い描いていた、海外研修という名の辺境地への医療活動へ行く事が決まって、年明け早々には日本を離れてしまうという事実・・・。
夫婦揃って同じ目標を進む姿は小さい頃から見ていたし、それを実現に向けた事は、もちろん尊敬している。
それにあたって今後の私達兄妹の生活をどうするかと言う、両親からの申し出だった。
兄達2人はそれぞれ成人で職にも付いているし心配はないけど、決まって話の中心とされているのは私の存在だった。
父に至っては私を置いて行くのは極めて心配だと言い、離れた所で気を病むならば、いっそ連れて行ってそばに置きたいと最後まで言っていた。
けど、母は相変わらずフワフワした感じを出しながらも私の意見を尊重したいから自分で自分の進みたい道を選びなさいなどと父とは違う気持ちを述べていた。
そんな風に家族中でバタバタとした話し合いが何度も重ねられていたけど、私はなぜかそれを傍観していた。
例えば両親と共に行ったところで、いつ日本に帰ってこれるかも分からないような所で生きていくというのも、自分がいることで、いつかきっと両親の目指す方向を狭めてしまうかも知れない。
2人の兄達はこれから先の事を尊重するなら、紡は残るべきだと両親を説得し始めていたから、私も、それはそうかも?などと思いはじめたから、悩むは悩んでいたけど結果的には日本に残り、兄達と3人で生活していく道を選んだ。
私は私で、こんな時だからこそ言えるかな・・・とも思い、今まで考え続けていた胸の内を明かすことにした。
『お父さん、お母さん、桜太にぃ、慧太にぃ・・・聞いてほしい事があるの・・・』
姿勢を正し、改めて座り直すと家族みんなは真剣な面持ちで私の事を見ていた。
『あのね・・・進学しても、もう、バレーボールから離れたいの・・・』
突然の話に両親は顔を見合わせ、慧太にぃに至っては口をパクパクさせていた。
周りのそんな様子に何も動じず、桜太にぃだけはテーブルの上で手を組み合わせ私の話を聞く姿勢でいた。