第19章 傷痕
月「なんで僕が・・・適当に床に置けばいいデショ。あ、ちょっと」
無理やり押し付け、山口君のスクイズを月島君に預ける。
私は山口君の両手を並べて見比べた。
やっぱりそうだ・・・腫れてきてる。
片方だけで確認しきれない時は、両方を並べると腫れの程度がわかりやすい。
『山口君、どれくらい痛みがある?』
私がそう聞くと、山口君は気まずそうに目を逸らす。
返事をしない、と言うことは全然痛くないのに私に聞かれて返答出来ないか、もしくは今ここで痛みがある事を言いたくないかのどちらかだ。
あまりこの方法はしてはダメなんだけど・・・
そう思いながらも、多分この辺が痛いのではないかという箇所をそっと押してみる。
すると山口君の顔が一瞬歪み、押した方の手がピクリと震えた。
菅「紡ちゃん、山口がどうかした?」
私達の様子を伺っていた菅原先輩が歩み寄る。
私は山口君の手を離さないまま、小声で簡単に説明した。
菅「山口、とりあえず冷やしてこい」
菅原先輩に言われると、さすがに観念したのかポツリと返事をして、私にも頷いた。
『山口君、先に手を洗って来てくれる?』
そう声をかけると、山口君は小さく頷き外の水道場にトボトボと歩いて行った。
私はそれを見送ると、駆け足で澤村先輩にも状況を説明し、すぐに自分のカバンからタオルと冷却ジェルを取り出すと山口君の所へ急いだ。
頭の中で常日頃から桜太にぃに言われている事を思い出す。
“ 紡、スポーツをやる上でケガは誰にでも起こるから、その為に〖 RICE 〗っていうのを覚えて置きなさい。必ず役に立つから ”
Rest・・・安静にさせる。
Ice・・・冷やす事。
Compression・・・圧迫する事。
Elevation・・・患部を心臓より高くする事。
この4つの頭文字を取って〖 RICE 〗。
安静にさせるっていうのは、この後の練習は状態によって見学して貰えばいい。
だから、まずは冷やす事が優先。
『山口君、手は洗い終わった?』
パタパタと近寄り声をかける。
山「あっ、ご、ごめん!これから洗うから」
そう言いながら顔を拭ってから私を見た。
・・・今の、もしかして涙?
目、赤いし。
泣いてたの?なんて軽く聞ける筈もなく、私はそのまま黙ってしまった。