第19章 傷痕
柔らかそうなくせっ毛を揺らしながら、ニコニコとしている先生は私の前に立ち止まる。
武「いやぁ、職員室で教頭先生に捕まってしまって。遅れて来たら紅白戦みたいなのやってるから見てました。そしたら、見かけない生徒がいるなぁって思ったら、まさか女の子だとは」
笑顔を崩さず、ジッと私を見る。
バレー部のみんなと比べたら、幾らか私に近い目線で何となく落ち着く。
『あ、えっと。1年の城戸紡です』
武「部の顧問をしている武田です。城戸さんは凄くバレーに慣れてる感じがしたけど、今日は女子部の方は練習休みですか?」
私がここにいる理由をまだ知らない武田先生は、どうやら私が女子バレー部の生徒だと思っているようだった。
『いえ、私は・・・』
澤「城戸さん、俺から説明するよ」
澤村先輩がそう言って、1歩前に出た。
澤「先生、城戸さんは青城との練習試合が終わるまで、マネージャー補佐として今日から参加してくれる事になりました」
武「そうですか!それはとても有難いですね!僕は顧問と言っても何かを教える事は出来ないし、ルールだって覚え途中ですから」
澤「影山と同じ中学出身で、バレーをずっとやってたそうなので、マネージャーの仕事以外にも練習の手伝いとかお願いしてます。応急手当とかも、俺達が見るよりずっと出来ると思います」
『澤村先輩、それはオーバーですよ。応急手当てくらい誰でも出来ますって・・・あ!!』
そうだ!
山口君の事を忘れる所だった!
『ちょっと失礼します!』
話の途中で振り切るのは良くないとはおもいながら、さっき視界の端に移った山口君の姿を思い出して駆け出した。
途中で試合開始前に端に置いたテーピングセットを取り、たすき掛けに準備しながら山口君の元へ急ぐ。
さっき・・・確かに右手を押さえていた。
大きなケガでなければいいけど・・・
『山口君!』
駆け寄り、名前を呼ぶ。
山「えっ?!オレ?!」
『他にいないでしょ?ちょっと手を見せて!』
山「手?」
会話をするのさえもどかしく、サッと山口君の右手を掴む。
普段から山口君の手を見てるわけじゃないから、いまいち確信が持てないけど・・・
人差し指・・・かな?
そういう時は・・・
『反対の手も見せて。あ、ちょっとコレ離してね?月島君、ちょっと預かって』