第17章 陽だまり
私が笑うと、澤村先輩が更に焦る。
清「叫び声が聞こえたら、菅原を派遣するね」
清水先輩もそう言って笑う。
参ったなぁ・・・と、澤村先輩がこぼし、3人で笑った。
澤「それじゃあ城戸さん、行こうか?」
そう言って澤村先輩は、私の背中に手を添えながら歩き出した。
『あの?本当に練習、良かったんですか?』
澤「さっきも言ったように、少し抜けるくらい何ともないって。今やってる練習の事はスガにも清水にも頼んであるし、心配しなくて平気だから」
練習そのものもそうだけど、部を取りまとめる主将を、私の都合で独り占めしている事に後ろめたさがあった。
澤「な~んにも、心配いらないからね」
黙ったまま考え込む私を気にかけてか、澤村先輩が心配いらないからと繰り返す。
私はなんて言葉を返せばいいのか分からずに、ただコクリと頷くしかなかった。
歩く途中で自販機を通りかかると、澤村先輩が足を止め、ポケットから小銭を取り出したかと思うと自販機に入れた。
澤「先に選んでいいよ?」
『はっ?・・・え?!あの?』
先に選んでって、え?!
澤「遠慮しないで、さ、どうぞ」
どうぞ、とか言われても・・・
遠慮しないで、とか言われても・・・
思いがけない澤村先輩の行動に戸惑う。
チラ、と、澤村先輩を見ても、まるでイタズラっ子のように笑いながら、どれにする?などと言っている。
ここはとりあえず選んで、後でお金を払おう。
そう思って自販機を見ると、いつだったか影山が買ってきてくれたお気に入りのミルクティーがあった。
『ミルクティー!』
思わず声に出てしまい、あっと口元を押さえた。
澤「ん?ミルクティーにする?」
『はい!このメーカーの、1番好きなんです』
そう告げると澤村先輩はボタンを押し、ガラガラと出てくるミルクティーを手渡してくれた。
澤「1番好きって、美味しいからってことかな?じゃ、俺も飲んでみるかな?」
澤村先輩はそう言って、同じ物を選び、手にした。
『あの、お金・・・』
言いながらリュックを開けようとすると、手で制され、頭をポンッとされる。
澤「俺が飲みたかったからいいんだよ」
そう言って、じゃ、そこの階段上がったら部室だからと言って歩き出す。
『・・・ありがとう、ございます』
前を歩く大きな背中に声をかけて、
私も続いて足を運んだ。