第5章 霹靂
ハジメ先輩と別れたあの日、しばらく雨に打たれていた私は熱を出し、丸3日寝込んでいた。
びしょ濡れで、目は真っ赤で帰宅した私を見て、2人の兄はとても驚き、何枚ものタオルを用意する者、慌てて浴槽に湯を張る者に別れてバタバタしていた。
下の兄は、何があったんだ、とか、どうしたんだ、とか、私の肩を掴み揺らしながら追求してきたけど、私は私で何も話さず、ただ、とめどなく溢れる涙を流すばかりでいた。
そんな姿を見た上の兄は、ギャアギャアと騒ぎ立てる下の兄をリビングから追い出し、何も聞かずに、ただフワリと抱きしめてくれた。
何も聞かない兄の優しさに気か緩んだせいか、私はそこで初めて声を出して泣き続け、そのまま眠ってしまったようだった。
目が覚めると自分の部屋に寝かされていて、ベッドの脇には看病された形跡を残したまま、下の兄がウトウト眠っていた。
私は、未だ重く感じる体を起こし、出来るだけ静かにカーテンを開けてみる。
あの日、あれだけ雨を降らせていた空は、今日も高く青く晴れていた。
「紡、起きてたのか?」
部屋に光が入ったせいか、下の兄が目を覚ます。
『慧太にぃ・・・看病してくれてありがとう』
「うんにゃ、これくらいなんとも?それより何か食えるか?桜太は昨夜は当直でまだ帰ってこないから、食えそうならオレが何か作ってやんぞ?」
『う~ん・・・お腹空いた感じはするけど、慧太にぃが作るの?大丈夫かなぁ?』
「お前ねぇ、元気になったとたん悪態つきやがって。ま、とにかくお前が腹減ってんなら何か作って来るわ」
『慧太にぃ、ありがとう・・・』
もう一度言うと、後ろ向きで手をヒラヒラさせながら、
「あいよ」
っといって部屋を後にした。
待っている間、手持ち無沙汰に私はスマホを取り出し、きっともう連絡など来ないだろう相手の連絡先を表示させては戻し・・・を繰り返していた。
部屋にあるサイドボードの上にある写真立てを見る。
そこには、付き合い始めの頃に及川先輩が
「いいからいいから、初々しい感じが記念だからぁ~」
などと言って、私達を無理やり並ばせて撮った物が飾られてある。
ホントに付き合い始めの微妙な距離感で並ぶ私達は、こんな日が来るなんて思っていなかっただろう。
いや、誰だって最初から別れを想定して始まる人なんていないだろう。