第16章 初めの1歩
“ そう・・・ですか・・・ ”
「それに、今日の別れ際に紡が言った事、覚えてる?」
“ 別れ際・・・ですか? ”
電話越しにも、彼が難しい顔をして今日の出来事を思い出している姿が浮かぶ。
「紡がさ、また明日・・・って言ったんだよ。これってさ大きな前進だと思わない?」
“ あ・・・ そう言えば・・・ ”
明日は日曜日。
学校自体は休みなのに、紡はあの3人に【 また明日 】って言ったんだ。
その後の様子からして、きっと紡は無意識にそう言ったのかも知れない。
でも、その無意識さが大事だったりするんだよな。
「澤村君?」
“ あ、はい・・・ ”
「紡は明日、行くと思うよ」
“ ・・・?!本当ですか?! ”
「朝からなのか、午後からなのか。ゴメンね、それは分からないけど、きっと紡は体育館にひょっこり顔を出すと思う。君達が言うところの、マネージャーを受けるかどうかも俺には分からない。でも、もし体育館に現れたら・・・」
澤村君が息を飲むのが分かる。
「その時は、紡の話を聞いてやって欲しい」
“ はい!! ”
元気よく返事を返され、それじゃ宜しくねと言って通話を終えリビングへと入る。
慧太はさっきと変わらず業界誌を広げながら寛いでいる。
慧「電話、終わったのか?」
「あぁ、まぁね」
そう返しながら、キッチンへ入りエプロンをつける。
明日。
紡は何時から出かけるか分からないけど、お弁当は必要だろうから。
澤村君から聞いた情報によると、明日は8時半集合で9時から練習開始の1日練習だと言ってたし。
慧「桜太?何してんだ?」
気がつくと慧太が横から覗き、明日は日曜日だけど?なんて言っている。
「慧太、明日は何時から?」
下拵えをする手を止めずに聞く。
慧「え?明日は中番だから10時には出るけど・・・なんで?」
「もしその時間より早く紡が出かけるようだったら、見送り頼むよ。明日は俺、早番で5時過ぎには出ちゃうから」
慧「それはいいけど、紡・・・やるって?」
「まだなんとも。でも明日、体育館には行くと思う」
慧「・・・そうかもな。そこは何となく思う」
「さっき紡と話をしたんだ」
慧「話って・・・?あぁ、あの時か。湿布貼るにしては長いと思ったよ。んで?どんな話をしたんだよ」
「気になる?」
慧「焦らすなよ」