第16章 初めの1歩
拗ねた時の紡と同じ顔を向けられ、思わず笑いがこぼれる。
「話すと長くなるから割愛するけど。立ち止まったままでいいのか?って。初めの1歩は誰だって怖い。だからといって、怖がってばかりじゃダメだ・・・って事を話したよ」
慧「へぇ。で、紡はなんだって?」
「それに関しては特に何も言ってなかったけど、でも、紡なりに何かを変えたいっていう気持ちは伝わってきたから」
慧「初めの1歩、ねぇ・・・じゃあオレ達がしてやれる事はひとつだな」
いつになく、穏やかに笑いながら慧太は言った。
慧「後は、背中を支えてやるだけだ」
「そういう事だね」
いつもなら背中を押してあげることが多い。
でも、今回の件は押されて1歩を踏み出すのではなく、紡が自分で1歩を踏み出さなければ意味がないんだ。
だから、背中を押すんじゃなくて。
躊躇って後ずさりしても転ばないように、俺達が支えてあげるから。
頑張れよ、紡・・・
そう思いながらキッチンでの作業を終えた。
「じゃあ、明日の朝は紡の事よろしくね」
慧「おぅ、任せとけ。あ、でも、オレ中番だから帰りはいつもより遅いから」
「了解。紡が帰る頃には俺も病院終わるから、そしたら紡と連絡取り合うよ。じゃ、おやすみ」
慧「あぁ、よろしくな」
慧太の言葉を受け入れながら、俺は自室へと戻った。