第16章 初めの1歩
~城戸家のリビング~
シャワーから出て身支度を終えて、リビングへ足を運ぶ。
「あれ?紡は?」
リビングには慧太だけがいて、さっきまで睡魔と戦っていた紡は既にいなかった。
慧「疲れたから寝るって言って、部屋にもどよ。桜太にも伝えてくれって言ってた」
「そっか。慧太とあれだけ体動かしてたら、それは疲れるよね」
冷蔵庫から水を出しながら言うと、慧太は不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。
慧「あれだけ・・・って、見てたのかよ?」
「まぁね。諸事情で」
慧「どうせなら入ってくれば良かったのに」
「だから諸事情だって。澤村君達に紡がどれだけバレーが好きで負けず嫌いなのかってのをコッソリ教えたんだよ」
慧「それ、紡にバレたら怒られるぞ」
「かもね?ま、それもいいじゃない」
よく分かんねぇ・・・などと慧太が言っているのを笑って交わしながらテーブルまで来ると、スマホのランプが点滅している事に気がついた。
メッセージを開けてみると、相手は・・・
《 澤村です。今日連絡先を交換したばかりで早々にすみません。1点だけ、どうしても気になった事があったので相談してみたくて連絡しました 》
「澤村君・・・」
慧「あ?何か言った?」
「いや、何でもない。こっちの話」
メッセージが届いた時間を見ると、今から15分程前か。
まだ、大丈夫かな?
上着を羽織り、ウッドデッキへ出る。
もう寝てしまったとは思えないけど、5コール鳴らして繋がらなかったら明日にしよう。
そう思って、澤村君の連絡先を選び通話ボタンを押すと、待ち構えていたかのような速さで電話に出た。
「もしもし、メッセージ今気がついたんだ。ゴメンねお待たせして」
“いえ、大丈夫です。こちらこそ今日はいろいろお世話になりました”
「それで、相談っていうのは?」
俺から先に切り出すと、澤村君は部屋で話をしている時に紡を泣かせてしまい、それがずっと心に引っかかっていて、もしかしたら酷く傷付けてしまったのではないか・・・などという内容で。
なぜ紡が泣いたのかは、頑として教えてはくれないけれど、それでも不安要素はひとつずつ解決してあげなければと考えた。
「澤村君、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。既に紡は寝てしまったようだし、何か不安になったり傷付いてる時の紡は、わかりやすいからね」