第16章 初めの1歩
そんな事は・・・と返すのと同時に、澤村先輩か頭を下げたので慌ててそれを止めた。
『澤村先輩やめて下さいっ、そんなつもりで話したわけじゃないですから』
澤村先輩は私の言葉で、ようやく頭を下げる事をやめてくれ、ちょっと話をしてもいいかな?と私に承諾を求めて来た。
私はそれを受け入れ、きちんと話が聞けるように座り直した。
その間も、影山はずっと私の手を包んだままで、私はいつの間にか、それも違和感なくいることに自分で驚いた。
チラ、と、影山を覗き見ても、先程と変わらず前を向いたままだった。
澤「さっき、いろいろと話してくれた事は約束通り他言はしない。でもさ、俺の個人的な考えなんだけど・・・そのこと自体をマイナスに考える必要は、ないんじゃないかな?」
澤村先輩の言葉の意味をうまく飲み込む事が出来なくて、戸惑ってしまう。
『それ、って、どういう・・・』
途切れ途切れに言うと、澤村先輩はハハッと笑いながら私を見た。
澤「そうだよね、急にこんな風に言われてもビックリしちゃうよね」
『あ、いえ、そういう訳じゃないんですけど・・・うまく飲み込めなくて』
素直にそう言うと、“ いいよ、気にしなくて ”と返してくれる。
にこりとしながら言われて、何だか少し申し訳ない気持ちになるのを自覚しながら、澤村先輩が話す言葉を待った。
澤村「いま俺が思った事はね、確かに過去の出来事は悲しくて辛い事だったと思う。それは、俺達が経験した事がないくらいの、ね?」
どう返答したらいいのか分からずに、思わず目線を下に向けた。
澤「でも、だからこそ俺は城戸さんに出会えたとも思った。もし・・・もしも、城戸さんがその時に泣いて縋って、今とは違う結果になっていたら、こんな風に出会う事もなかったと思うよ。いろいろな事を経験して、自分の判断で烏野に来た」
『でも私はもう・・・』
澤「烏野を選んだのは、バレーから離れたかったから、だよね?」
澤村先輩の言葉にハッとして前を向いた。
『どうして、ですか・・・?』
私が言うと、澤村先輩は苦笑いを見せた。
澤「城戸さんが、バレーやりたくて学校選ぶなら、烏野はない、かな?って。女子部は頑張っているけど、俺達と同じでなかなか勝ち上がれてないから、そうかな?って」
今更だけど、私は随分と失礼な選択をしたんだと思った。
