第16章 初めの1歩
だから私は、あの時・・・
『目指す所へのチャンスを掴むために、バレーに集中したいから・・・そういった理由で、終わったんです・・・』
・・・ハッと息を飲む様子が分かり、思わず視線を外す。
長い沈黙の中で、私は体中に枷を付けられる気持ちで当時を思い出していた。
菅「それ・・・って、目的の為に、紡ちゃんを捨て置いた・・・って事・・・?」
澤「スガ!」
菅原先輩が放つ言葉に、澤村先輩が止めに入る。
菅「だってそうでしょ?!バレーに集中したいくらいの事で、わざわざ別れを切り出すとか変だよ!そんなのって、」
澤「スガ!とりあえず黙って座れ!」
澤村先輩の大きな声に、その場にいた全員に緊張感が走る。
私は再び沈黙の闇に巻かれてしまう前に話を続ける事にした。
『菅原先輩の言いたいことは、分かります。でも、私自身も、その人が目標に向かって頑張る姿をずっと見てきて、そしてこれからも突き進んで欲しいと思って受け入れました。・・・でも・・・』
澤「・・・でも?」
『今こそ思えば、本当は、一緒に走り続けていたかったと、思います。隣を走る事が出来なければ、1歩後ろからでも全力で背中を追いかけ続けたかった・・・でも、それも出来なくて。私は自分の弱さを理由に、バレーから離れました。それが、バレーを捨てたも同然な理由です・・・』
澤「・・・そっか・・・」
話し終わると澤村先輩は、一言そう言って、静かにグラスに口を付けた。
そのまま目を閉じ、眉間にシワを寄せながら黙って何かを考え込んでいる澤村先輩を、菅原先輩が不安気に見ている。
それは私も同じで、この後どんな言葉を続けたらいいのかさえ、手探りのまま何も言えなかった。
菅「・・・大地?」
暫くの沈黙の後、それに耐え切れなくなったのか、菅原先輩が声を掛けた。
菅原先輩の呼びかけに答えるように、澤村先輩が閉じていた目を開き大きく深呼吸をする。
何となくそれを見て、私も姿勢を正した。
澤「まず、城戸さんにひとつ謝るよ。ごめんね」
思ってもいなかった言葉に、私は驚いてしまった。
『あの、澤村先輩から謝られることなんて・・・ない、と、思うんですけど・・・?』
私がそう返すと、澤村先輩は首を振った。
澤「いや、俺達が今日ここに来なければ、辛い事を思い出して話す事もなかったと思うんだ。だから、ごめんね」
