第16章 初めの1歩
瞼をギュッと閉じて、ゆっくり深呼吸をして、ゆっくりゆっくり目を開ける。
さっきまで冷たくなっていた手は、影山のおかげで、暖かくなっていた。
『別れを、告げられた理由・・・ですけど・・・』
絞り出す様に話し出す私に、澤村先輩達は穏やかな顔で耳を傾けてくれる。
以前の私だったら、何を聞かれても頑なに話す事はなかった。
実際、桜太にぃや慧太にぃにさえ何も話してない。
桜太にぃに関しては特に追求される事はなかったけれど、慧太にぃからは肩を揺すぶられる勢いで追求されたけど、それも何でもないからと追い返すばかりだった。
それなのに、状況はどうであれ、まだ出会って数日の澤村先輩や菅原先輩に話す事が出来ているのは、やはり2人の“ 人柄 ”なんだろうか。
菅原先輩は少しの事なら、笑いながら大丈夫だからね?と優しく包んでくれる、まるで母親のようで。
澤村先輩といえば、間違った事は間違っている、じゃあどうしたらいいのかという正しい道標を一緒に考えてくれる父親のような誠実さを兼ね備えていると感じる。
そんな事を思ったなんて2人に告げたら、どんな顔をするだろうかと考えながら、でもいつか、そんな話が出来るくらいの距離になったら、話してみたいなどと思いながら、話を続けた。
『その理由は、バレーなんです』
私の言葉に、2人とも驚いていた。
菅「えっ?!バレーって?・・・えっ?」
澤「スガ、とりあえず最後まで・・・」
菅「あ、あぁ・・・そうだね・・・」
澤「ごめんね、途中で」
そう言う澤村先輩に、私はひと振り首を振りながら続けた。
『ただ単にバレーって言われたら、ビックリしちゃいますよね?でも、結果的にはバレー絡みなんです』
そう言ってから、グラスからひと口飲み、乾いてくっつきそうな喉を潤す。
『その人は、いえ、その人達がいる所は、誰もが目指すずっとずっと上を目指して頑張っていて。もちろん、いつもその頑張りに見合った結果を出してたいたんですけど、あと少しでそのチャンスを掴める・・・そういった所で足踏みをしていたんです』
・・・今度こそ白鳥沢のウシワカに勝つ。
いつも岩泉先輩と及川先輩が口癖のように言っていた。
でも、いつもあと少しで・・・という所で前に進む事を許されなかった相手。
それが中学時代から、何度も繰り返されていて、最後のチャンス・・・
