第16章 初めの1歩
桜「とりあえず、今は・・・かな?」
湿布を貼り終えた桜太にぃが、パーカーを肩に掛けてくれながら答える。
『今は・・・って?』
桜「医師になるには、免許取ったらハイ終わり・・・って訳じゃなくて、だいたい2年くらいは初期研修でレジデント、つまり研修医なんだけど、その期間で色々な診療科をまわって勉強するんだよ」
『じゃあ、桜太にぃはもう2年経つから研修医は終わり?』
桜「う~ん・・・きっちり期間が決まってる訳じゃないけど、それで終わりにする人もいるし、経験を積むためにレジデントを続ける人もいるよ」
パーカーに袖を通し、医師って大変なんだなと思う。
『桜太にぃは研修医、続けるの?』
桜「俺?そうだねぇ、レジデントが終わると、今度はフェローシップっていって後期研修医になるんだけど・・・今ちょっと迷ってるとこ」
桜太にぃが、迷ってる?
いつもスマートに何でもこなしてしまう桜太にぃの姿からは予想もつかない言葉に驚いた。
『桜太にぃでも、迷う事なんてあるんだ・・・?』
真顔で言うと、桜太にぃはその言葉を受けて苦笑する。
桜「あるよ、何度も。フェローシップに進むとね、自分が進みたい診療科を選んで、そこで早くて3年、科目や希望によっては更に資格が必要だったり、もっと長い期間を要して、その科の先生から専門的に学ぶんだけど・・・そこで迷ってる」
『私達の選択科目とかと似てるね』
私の言葉に、桜太にぃが、そうだね、と返す。
『桜太にぃは、小児科の先生にはならないの?』
桜「そうだねぇ、まだ決めかねてる。小児科の子供達も可愛いしね。桜太せんせー・・・ってさ」
小児科病棟にいる子供達の事を話す桜太にぃは、とても穏やかな表情で、優しい顔をしていた。
それが何となく、桜太にぃを取られてしまうような気持ちになって、寂しい感じが押し寄せ、ベッドの上で膝を抱えて気持ちを落ち着かせた。
桜「あれ、急におとなしくなっちゃって?」
『別に・・・何でもないよ。それよりさ、影山たちなんだけど・・・』
小さな小さな子供達に、ほのかなヤキモチを抱いてしまったことを悟られないように話題を変えた。
桜「その事なんだけど、ちょっと話をしようか・・・」
そう言って桜太にぃは、机の椅子を引いて座り話し始めた。