第5章 霹靂
ハジメ先輩は私をそっと解放すると、いつもしてくれていたみたいに頭をポンポンっとした。
もう、ホントに終わりなんだな・・・
そう確信すると私は俯いた。
「紡・・・」
もう呼ばれることのないだろう名前をつぶやかれ、顔を上げるとハジメ先輩と視線が合う。
するとハジメ先輩はその高い背を屈ませ、私の頬に口付けた。
そしてそのまま、たったひと言、
「ゴメン」
と言葉をこぼした。
最初で最後のキス・・・ハジメ先輩は頬に口付ける意味を知っているんだろうか。
『行ってください。私は少し落ち着いてから帰りますから。それに見送られるより、見送って終わりにしたいから』
私が言うと、ハジメ先輩は
「そっか・・・」
そう言い残して踵を返し、1度だけ立ち止まってから歩き出して行った。
その姿が見えなくなるまで、私は頬を押さえながら見ていた。
全てが終わると私はベンチに座り、空を見上げ続けた。
溢れだしそうな涙が、青く高い空を滲ませる。
今日も空が高いなぁ・・・。
そんな事を考えながら、私は瞼を閉じた。
今まで我慢してきた感情が一気に溢れ出し、止まらなくなる。
私はそれを拭う事もせず、ただその感情のままにいた。
そんな心に同情してか否か、さっきまで高く青かった空が暗雲立ち込め雨が降り出していた。