第16章 初めの1歩
澤村君はそう言ってカップに手を付けるも、時折チラリと俺を見ては、何か考え込んでいた。
「何か、聞きたそうだね?」
俺の方から助け舟を出してみる。
すると澤村君は顔を上げ、真っ直ぐ俺を見た。
澤「ちょっと混乱して、うまく聞けるか分からないんですけど、いいですか?」
カップに口を付けながら、いいよ?と返す。
澤「まず、家の中にコートがあるって驚いていて・・・それから、城戸さんのあの姿を初めて見たのと、あと、あれだけ熱心なら、なぜバレーから離れたのか・・・とか・・・マネージャーに誘うのは間違っているんじゃないか、とか」
ポツリポツリと話す言葉を受け止め、俺は、分かった答えるよと姿勢を正す。
「地下にコートがあるのはね、俺も弟も小さい頃から高校までバレーをやっていて、両親が家を建てた時に、いつでも好きなだけ練習出来るようにって作ったみたい。バレーをやらなくなっても、何かと体動かすのに使えるからって。うちは父も母も大学病院で医師をしていてね、研究だとかで帰りが遅いときは、まだよちよち歩きの紡を連れてコートでよく練習したよ」
澤「いま、ご両親はご不在ですか?もしいるならお邪魔してるので・・・」
「いないよ。2人とも揃ってどこかの辺境の地でドクターボランティアをしてる。急に決まった事でね、年明けには日本を離れたよ。だから今は紡と3人暮し」
澤「そう・・・なんですか・・・」
「それからね、紡はそんな頃から俺達がボール遊びと称して一緒にやってたから、バレーボール自体は好きなんだと思う。だから、時々ああやって俺達を誘ってはヘトヘトになるまでバレー練習やってる。紡は、バレーに関しては頑固だからね」
俺の言葉に、菅原君がなるほど、と声を漏らす。
菅「確かに、バレーに関してはそうかも知れない。大地、黙っててゴメン。実は影山と日向の事、紡ちゃんも1枚噛んでるんだ。それで、日向のレシーブ特訓をする時の紡ちゃん、凄く真剣で、普段の姿とは全然違った」
澤「それは俺も何となく分かるかも。今日の様子を見ていて、日向にレシーブ練習させる時の彼女は、コートに入ったら空気が変わったっていうか」
「普段はポワ~ンとしてるのにね」
菅「はい・・・って、え?!あっ?!すみません!」
「大丈夫、ホントの事だから」
つい本音が出てしまったのか慌てる菅原君を見て俺は笑う。